先日、某翻訳会社の社長とお話しする機会があった。
思いがけず、製造業での営業のご経験がおありだそうで、製造の品質管理の考え方を翻訳の品質管理へ採り入れていると、お話しがされた。具体的にどのようなアプローチを採っておられるかまでは、踏み込んで話す時間がなかったのだが、とても興味深い。
私自身も製造業の品質管理を、如何に翻訳品質の保証と管理に生かすかを、ひとつのテーマにしている。
昨年の翻訳祭で講演した時、「翻訳は一点物のカスタム製品。大量生産を主に意図した製造業の品質管理手法は、そのままでは適用できない。」と言う話をさせて頂いた。
この講演の後、ある製造系の会社で内部翻訳に携わっておられる方からメールを頂いた。「モヤモヤとしていた想いが晴れた」と書かれてあった。
製造業に浸った人間が、翻訳品質に同じアプローチをそのまま使おうと考えるのは、極自然な流れだと思う。ただ、翻訳を知った人間から見れば、あまりに不自然で横暴な手法に映る筈である。メールをくれた方は、多分、周りからそのような認識によるプレッシャーを受けつつ、翻訳品質の向上を目指されていて、周りの説得に苦慮されていたのかもしれない。
製造業の品質管理手法がそのままでは使えないと言う考え方は、未だ変わらないが、決して「全く使えない」とは言っていない。品質管理の考え方や手法・手段を変えて適用する事は、可能だと考えているし、寧ろ、そのアプローチでもっと取り入れるべきだと考えている。
色々な翻訳会社が営業に見えられ、品質管理のお話を聞くが、どれも通り一辺倒。心の中で「あぁ、よく聞く話ね」と感じている。
しかし、お話させて頂いた社長の話は新しさを感じた。そういう思考の違う営業アプローチも面白い。もっとも、それを理解して頂けるクライアントは少ないと仰っていた。それも凄く頷ける。
私は製造業の品質管理手法を、翻訳の品質保証における自分達の通り一辺倒な思考に刺激を与え、新しい考え方と手法を生み出す為のツールと位置付けて検討しているし、検討を続けたいと考えている。