以前、チェッカーの役目も担う翻訳コーディネータ採用のために翻訳トライアルを実施した事がある。日英と英日なのだが、その評価過程で色々と思う事や、やはりそうか…と再認識させられる事があった。
十数名の評価を行ったが、経歴を見ると全ての応募者が過去にフリーランス翻訳者としての経験はなく、社内翻訳者経験のみだった(コーディネーターの募集だから当然な流れなのだが)。また、志望動機も将来、フリーランス翻訳者となるための勉強としてだったり、単純にコーディネーション的業務が好きだからなど、さまざま。
いつも、トライアルの話題になると私は言っているが、「トライアルの訳文を見れば、翻訳力のみならず、物事に対する姿勢も垣間見ることができる」と言う事。この時のトライアルは「社内翻訳が誠に翻訳の経験とならない」事を立証するような結果だった。やはり、社内翻訳では翻訳物にチェックが入らないところが殆どである…というところに起因しているのだろう。
トライアル結果の傾向は、「言葉選びに思慮がなく」「翻訳ではなく置換」の領域を出ていないものが多い印象。「言葉調べが不十分、もしくはされていない」し「原稿の言っている事が理解できないのに調べないで」「分からないものを分からないまま、言葉を置き換えている」感じ。評価の結果、及第点をあげられる応募者は一割未満だった。この方は翻訳の勉強をしてるなと感じ取れるものだったが、他の方は初心者の域を出ないものだった。最近行った翻訳者募集時のトライアルの質と比較すると雲泥の差。ちゃんと勉強しなくちゃ翻訳者にはなれないって事だと思う。
本当に翻訳者を目指すなら…
- 真面目に「翻訳」の勉強をする。翻訳学校や通信講座で学ぶのが効率的だと思う。
- 社内翻訳で得られるのは、関わる文書に関する知識と業務知識、偏りの可能性がある用語知識と翻訳流儀。社内翻訳の業務を通じて、翻訳を学べると言う幻想は捨てる。
- 社内翻訳者は井の中の蛙に陥り易い(独り善がりな翻訳に陥り易い)。翻訳セミナーや勉強会など外部知識を取り入れて、知識を是正する。