翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.

翻訳物はイイワケをしない

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昨日、どんな条件でも品質を妥協点としてはならないという記事を書きましたが、もし仮に、顧客が「品質を担保しなくて良いから、やってくれ」という条件を提示してきたら、どうしますか? 自分の見積りが「我武者羅に頑張って翻訳して、チェックしないで納めれば間に合いそう」だったら、この仕事を受けますか?あなたなら、どうするでしょう?

私ならキッパリと断ります。

納品後にこの顧客とトラブルになったとしても、合意した条件を説明すれば、一応責任は回避できそうです。さて、この「顧客」って誰なのか?です。誰が納得してるのかです。多分、自分と交信している担当者(発注者)、もしくはその先にいる担当者でしょう。納品した翻訳物に対する「品質無担保」の「いいわけ」を知ってるのは、それらの担当者だけということになります。

私はよく「翻訳物は独り歩きする」と言ってるのですが、納品した翻訳物がどこに渡り、誰の目に触れるかはまったく予測がつきません。翻訳会社なら他の担当者が目にするかもしれませんし、ソースクライアントなら他の部署の人間が目にするかもしれません。目に触れた翻訳物が、よほど素晴らしい翻訳だったり、あまりに酷い翻訳だったりすると、「これは誰が翻訳したものか?」という話に必ずなります。概ね、酷い場合の方が「誰?」という話になり易いですね。

その評価や判断は、その担当者ではなく、翻訳物の利用者(だったり最終読者)がするわけです。そこで「翻訳者はAさんです。」という話が出れば、先述の「いいわけ」を知らない人は「Aって翻訳者は酷いな」という印象を持ち続け、「この翻訳者には仕事を頼むな」という判断を出し続ける可能性が生まれるわけです。

翻訳物に前提条件なんて紐付けされていません。

翻訳物に「いいわけ」は書いてありませんし、その「いいわけ」を利用者が認識することはありません。つまり、例えどんなに前提条件を付けて合意して、翻訳の仕事を請けても、その先では翻訳物の品質が全てと判断されるのです。品質を担保しなくていいなんて案件の打診があったら、そのリスクを十分に認識した上で判断しましょう。私は「断る」ことをお勧めします。

作成者: Terry Saito

二足の草鞋を履く実務翻訳者です。某社で翻訳コーディネーター、社内翻訳者をやっていました。 詳細は、以下のURLよりどうぞ。 https://terrysaito.com/about/

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