翻訳横丁の裏路地

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マッチ率による価格は破綻

最近ときどき耳にするのは、本来、翻訳支援ツール(CAT)の使用が許容できると言われているマニュアルなどの文書種類を逸脱して、プレゼン資料やコピーライティングといった、同じ原文でも表現の仕方により訳文の幅が大きく違ってくる文書種類にまで、CAT適用を要求してくる翻訳会社やクライアントが増えてきているらしい。(翻訳支援ツールの誤使用)

これは、CAT使用が可能だと判断する立場である翻訳会社の翻訳的無知が原因ですが、中の人間の入れ替わりとともに、本来の考え方が忘れ去られているのだと思います。

マッチ率とレートには前提となる文書種類があるはず

私は以前から疑問に思っているのは、「訳文の再利用」という考えがあるからこそのマッチ率による価格設定だと思うのですが、「果たして本当に再利用できているのか?」ということ。商品名称や部品名称といった固有名詞が違うだけであれば、概ね、その単語を置き換え、必要に応じて冠詞と単複を合わせ込めばオリジナルの訳文を「再利用」できる(のか?ほんとに?)のでしょうが、それを超えると「再利用」ではなく「再翻訳」に等しいのではないか?と感じています。もちろん、マッチ率はそういったものの登場頻度を鑑み、平均化された数値だと想像していますが、その平均値の前提となるのが適用する原稿の文書種類だと考えるわけです。

つまり、マッチ率による価格設定自体も、適用する文書種類によって違ったものが設定されていて然るべきで、前述のプレゼン資料などのケースなら、「マッチ率は何%だろうが100%の支払い」という価格設定をせざるを得ないでしょう。

無管理TM故にマッチ率は破綻。再利用可能率で考えるべき?

どうも、言葉に惑わされている気がします。「マッチ率」は「再利用可能率」と頭の中で置き換えて考えた方が良いのかもしれません。マッチ率というとTMと原文のデータ的に合致した割合を意味しますが、再利用可能率として考えると、合致したTMの訳文が再利用可能かどうかの率ですから、全く意味が変わってきます。そもそもTMの訳文が100%マッチしようとも再利用できるかどうかは不明です。ましてや、TMの管理がされていなければ、訳文が再利用できる可能性はかなり低いだろうと思うのです。(これ、クラウド系CATだと野生の王国なんぢゃ!?)

翻訳会社自身がマッチ率によるレートを破綻させている

翻訳会社がCAT使用の前提条件を忘れ、あらゆる文書種類へ適用することを始めた時点で、マッチ率レートがひとつでは破綻する状況を作り出しています。今後、マッチ率レートはひとつではないという認識に切り換えて、翻訳者さんは交渉してみるのも良いと思います。

プレゼン資料のCAT使用案件がきたら、「このマッチ率レートは、どういう文書種類を対象としていますか?」と聞いてみると面白いかもしれませんね。「統一レートです」と言われたら、「それ、おかしいでしょう?」という話になる。私だったら、マッチ率関係なく翻訳料は100%お支払いするね。過去訳の再利用など全く目的とせず、訳後のレイアウト調整を簡略化するとか用語集適用という利を取る意味でのCAT使用になるだろう。