翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


レートのお話

翻訳者が得る報酬(レート)は、皆さんの興味が高いトピックであるにも関わらず、その実態はなかなか見えてきません。お金に関する事を公の場で言及する事は憚れるイメージがあるからだと思います。

業界誌が時々、レートに関する特集記事を掲載していたり業界団体が調査した結果を公開していたり、そういった情報を拠り所にしているわけですが、中にはそれらの情報や実態とはかけ離れた情報を公開しているサイトも見かけます。

私の脳内にある基準は、コーディネータとして自分が設定した(翻訳者さんへの)レートにあるわけですが、これも、あれこれ調べたり翻訳者さんに問合せたりして、最終的に経営的制限レンジから翻訳者さんの実力に応じて決定したレートです。幅の広い「世間水準」の何処かに位置している筈ですが、それが果たして翻訳者さんにとっての本当の適正水準であるかは、正直わかりません。

何をもって適正と言うのか?

いろいろと議論がされている話ですが、私はその解を持ち合わせていません。以前行った翻訳者インタビューの中で、翻訳者さんと翻訳会社/クライアントの間で、どういう経緯を経てレートが決定されているかを伺ってきました。

  • 自分から提示(自分から積極的に言う場合と、エージェントから問われて言う場合を含む)
  • エージェントから提示

当り前ですが、具体的額面が提示されるのはこの2通りしかありません。皆さん、どちらのケースも経験されていました。では、翻訳者側から提示する場合のそのレートは、何に基づいて決定されているのでしょうか?

実績値と目標値

そのように感じました。概ね実績値を基準としてレート提示しているようです。(その実績値も遡っていくと、エージェントからの提示レートと、自分が算出して提示したレートに行き着くようです。)

一方、家族を養う立場にある方の考え方は少し違っており、生活を守る上で必要な収入はいくらか算出し、それに基づいて自分の能力・こなせる翻訳分量などを考慮した上で必要なレートを決定し、それを目標として交渉されているという方が複数名いました。

この考え方は「自分の適正レート」を認識するという意味では、正しいと感じました。無闇にエージェントの提示額に翻弄されるより、このような方法で自分の目標値を自分なりに定めて交渉する。こういうアプローチが大切だと思います。

  • 貴方の適正な翻訳レートはお幾らですか?
  • そして、その根拠は何ですか?

丸腰で交渉のテーブルに着くような意識は、フリーランスにあってはならないと思います。ですので、少なくとも自分自身の中で、これらの問い掛けに答えられる自分なりの解を準備しておく必要があるでしょう。

「最初が肝心」

概ね、翻訳者自身もエージェント自身も、実績値を拠り所にする傾向が強いことから、将来的なレートアップを考えると「最初が肝心」と思います。

翻訳者側から提示する場合、実績値、もしくは実績値に幾ばくか上乗せしたレートで提示するのだと思いますが、すんなり受け入れられる場合もあるようですし、その後に交渉が入るケースもあるようです。一方では、エージェント側からレートの提示がされ、期待値通りかそれ以上であれば受け入れ、そうでない場合はやはり交渉になるという流れでしょう。

そこにはいろいろな思惑と交渉があって、決定に至るプロセスは一概にいえないのは勿論ですが、相手との将来的継続性の考慮やレートの2段階提示(最初いくらで品質確認後いくらと言うようなスタイル)による妥協点模索とか工夫が見られます。ただ、概ねいえるのは、条件によって交渉決裂にするレートを翻訳者さん自身が決めていて、それを基準として判断されているということです。

自分自身の中に「最低レート、最低条件」をちゃんと定義付けておくことが大切です。

さて、レートって上がるものでしょうか?

フリーランス翻訳者さんとの会話で分かるのは、上がらないと考えている方が多い。さらに、上げようと交渉されている方が少ないという印象を持っています。

先に言及した家族を養う立場にある翻訳者さんは、その辺りの意識がまったく違います。定期的に、例えば年に一回はレート交渉をされている方もいました。実力、貢献度が上がってくる訳ですから、恥ずることは何もないと思います。

エージェントは、翻訳者を入れ替えつつ、良質で安価な翻訳を仕入れる動きをしています。ビジネスとして当然の流れです。

翻訳者も同じ動きをするべきだと思います。エージェントを変えながら、自分の翻訳の価値を理解し、適正レートで買い取ってくれるエージェントに変えて行く。そう言う意識を持つ事も大切だと思いますし、実際にそういう動きを取って行く事も大切だと思います。

レートは、自らの翻訳という仕事の価値を表現する具体的なもの。もう少し「意識」して、自分なりの考えを持って価値を高める事に力を注いでも良いのではないでしょうか?