翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


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翻訳会社は質の高い翻訳者を使うと損するのか?

確か先月の事だが、ある方のブログを拝読していて標題のようなコメントを読んだ。

質の高い翻訳者へ支払う翻訳料は高額であり、クライアントへの売価が固定されている条件下では、そういった質の高い翻訳者へ仕事を委託すると利益を圧迫するため、自ずと単価の低い、質の低い翻訳者へ依頼する事になる…と言うのが、そのコメント趣旨だったように思う。多分、一般的にはこういう認識の方が多いのだろうと思うので、それは少し違うよ…という事をお話ししたい。

上記のコメントは「翻訳料+利益=売価」という非常に単純な認識で言及されていると思う。

最終的な翻訳売価には、オーバーヘッドなど色々なコストが乗っかっているのはご存知の通り。ただ、ここでは翻訳の質と翻訳売価の関連性が主題なので、翻訳の質で影響を受けるであろうコストだけを考えてみたい。まともな翻訳会社であれば翻訳工程として、翻訳者が行う一次翻訳の後に、チェック、リライトの工程を持っていると思う。チェッカーや校正者によって行われるこれら作業は、概ね掛ける時間によってコストが決まる。また、その時間の長さは一次翻訳の質によって大きく違う事になる。

翻訳料+後工程コスト+利益=売価

こういう単純化した式で考えると良いと思う。つまり、良い品質の翻訳品であれば後工程コストが小さくなり、質の悪い翻訳品であれば後工程コストが大きくなる。レートの高いインハウスのチェッカーや校正者を使っている場合では、(質の高い)高額翻訳者と(質の低い)低額翻訳者の一次翻訳コスト差を、後工程コストが簡単に逆転する事になるだろう。

つまり、単価の高い翻訳者に頼まないで単価の低い翻訳者へ頼めば利益が増えるので、単価の低い翻訳者ばかりへ依頼する…なんて事にはならない。まともな翻訳会社はそんな事を考えないし、やらない。チェックもリライトも「修正・訂正」作業であり、一次翻訳の基本的な質を覆せない。そこまで酷ければ訳し直しとなり、一次翻訳のコストだけで倍掛かってしまう。一次翻訳の質が非常に大切なので、品質のいい翻訳者さんへ依頼する方が総合的に見ても「得」。

「質」の話しは以前から何度も言及しているように、判断する「基準」が大切で、そこに認識の違いがあるから問題となる。「酷い質の翻訳が納品された」のであれば、翻訳会社と基準の確認と調整をするべきだと思う。その上で継続して質の悪い翻訳品が納品されるようであれば、その翻訳会社との取引は止めるべき。世の中の翻訳会社が全て同じであり、同じ質のものを提供していると考えているようであれば、それは明らかに「幻想」だと思う。自分達の求める質やコストで翻訳サービスを提供する翻訳会社を探し出す事が大切だ。

 


3件のコメント

【8月24日】UST放送「知っとこ!こういう翻訳会社」

UST放送「知っとこ!こういう翻訳会社」

とても久し振りのUSTREAM放送を以下の日程で行います。

日時:8月24日(土) 午後10時〜(最長2時間)

USTREAMチャンネル:翻訳横丁の裏路地

今回の放送内容は、7月17日に掲載した「【アンケート】こんな翻訳会社がいた!?」へ、色々な翻訳者さんから回答をいただきました。回答総数は40。具体的な事例ばかりを紹介いただきましたので、これらを取り上げつつ、一体、フリーランス翻訳者はどのように対応したらいいのか?という事を考察していきたいと思います。

今回、USTREAMを使用する目的は、番組と視聴者の間で Twitter を介していろいろな意見交換を行うためです。是非、Twitter から番組へ参加ください。

Twitter ハッシュタグ #usterry です。ツイートにこのタグを付けて質問、コメントを発信して下さい。


フリーランス翻訳者の年収アンケート結果

先月末に私のブログでアンケートを採った「フリーランス翻訳者の年収」に関して、投票が落ち着きましたので打ち切って結果をまとめてみました。

  • 投票総数:66件
  • アンケート期間:2012年2月29日~2012年3月19日(20日間)
  • アンケート方式:ブログのアンケート機能( IPアドレスチェックによる重複投票禁止)

データは Google Doc で公開しましたので、以下のリンクで閲覧して下さい。

フリーランス翻訳者:年収アンケート結果

wagetable

wage

本来、詳細かつ正確な分析を行うためのデータを採るならば、投票者のプロフィール情報(専業・兼業、年齢、性別、経験年数、取扱分野、取引相手の種類等)も同時に採る必要がありますが、上記のデータは単純あるブログのアンケート機能を使ったものですので、データの取扱いには注意する必要があります。

このデータの性質を理解する上で、以下の点を理解しておいて下さい。

  • このデータはブログのアンケートの機能を使って採ったもの。
  • IPチェックによる重複チェックはされているが、同一人物多投票の可能性がある。
  • 不特定多数が投票出来る為、投票者が本当にフリーランス翻訳者かどうかは分からない。
  • 投票者が嘘の情報を投票している可能性がある。

色々なノイズが乗ったデータであるという事を前提としても、これらの情報を眺めていると、ある程度の傾向は把握出来るのではないかと思います。

2000万円以上が5件と多い点にかなりノイズが疑われますが、少なくともこの内の2件は私の知る翻訳者さんである事を理解していますので、全く嘘というデータではありません。

年収と言う点で考えると、兼業であるか専業であるかの影響を大きく受ける事になりますので、このデータでは切り分けができません。但し、見方として、専業の翻訳者さんの年収は自ずと分布の山の右側にある筈です。2000万円以上のデータを除いた残りの山において、右端にいるデータの一部は私の知る翻訳者さんである事も理解していますので、ある程度の信憑性を持っています。

専業・兼業の境目がどの辺りにあるのかが分かりませんが、少なくとも500万円辺りを中心として、それより上に専業翻訳者の年収は位置付いていると推測できます。

さて、あまり公に正確な数値は出せませんが、この話題が Twitter で盛り上がった時に、私のお付き合いのある翻訳者さんへの年間支払総額と翻訳手番などのデータに色々と前提を付け、仮にフル稼働している場合に推定される年収を逆算してみたのですが、概ね上記テーブルの 3~6 に入ってくるように推測されます。

以上、ひとつのイメージを掴む為のデータとしてご利用下さい。


1000円ヘアカットに翻訳を映す

「1000円カットだん。
翻訳業界も1000円翻訳に流れてしまうのは、世の定めかww」

ヘアカットを終えて、駐車場の車の中から送信したこのツイートに、 Twitter や Facebookで翻訳者の方々から色々とコメントを頂きました。概ね「1000円翻訳」という言葉から、安価な翻訳サービスに関する懸念や考えに関するものでした。

1000円ヘアカットをして貰いながら、ぼんやり考えていたのは、1000円カットがない時代は普通に理容院や美容院に行ってヘアカットをしていたなぁ…という事と、その値段は遥かに高かったなぁと言う事。そして、何故、私が現在は1000円カットで「良し」としているのか?という事や、理容院や美容院に行くのはどんな時だろう?と言う事に思いを巡らせていました。

理容院や美容院と1000円ヘアカットでは、提供されるサービスの内容に大きな差があります。その差が売価の差になっているのですが、利用する顧客側から見た場合、必要最低限の機能は、「ある程度のスタイル」に「髪を刈りそろえる」という事だと思います。

1000円ヘアカットの話を出すと、必ず反応として出てくるのが「安かろう悪かろう」と言う話ですが、その「悪かろう」は何を判断したものか?がとても疑問に感じる訳です。

実は「理容院」と言う既成概念と比較して、当然提供される(と思い込んでいる)サービスが提供されない事を判断しているのかもしれません。もしくは「ある程度のスタイル」が気に入らず、短絡的に価格が原因と判断してるに過ぎないのかもしれません。もっとも後者は、比率に違いはあれど理容院や美容院でも、同じ事が起こるのですが。
実のところ、必要とされる機能である「髪を刈り揃える」の品質は、決して悪いとは思えないのです。

絞り込んだサービスが顧客に受け容れられれば、新たな市場が形成される訳ですが、1000円ヘアカットは廃れず生き延びているところを見ると、市場に受け容れられたという事でしょう。

何を1000円ヘアカットから発想したかと言うと、翻訳とは言え、サービスにせよ品質にせよ、顧客側がまだ認識していない受容可能なレベルがあり、そこを開拓すれば新たな市場が形成される可能性がある…と言う事です。

翻訳案件もピンからキリ。全てに同じ質が求められるか?と言うとそうではありません。

仮に切り詰めたサービスと質が市場に受け容れられたとしたならば、コストの掛からないサービスへ流れる顧客が増えるのは当然のこと。

なので「世の定め」とツイートしたのです。

既に色んな翻訳サービスが世に出てきています。翻訳経験がなくとも、言語が出来れば翻訳者として翻訳をさせ、提供してるようなサービスもあります。当然、仕入値を抑えられるので売価が低く設定されています。質を担保するための工夫が色々されているようですが、それが市場に受け入れられるか否かがカギになるでしょう。

エージェントの立場で考えれば、顧客の求めるものがそこにあるのなら、その可能性を無視する訳にはいきません。少々真面目に思考する必要があります。

翻訳プロセスを考えると、実は翻訳者側で抱えている機能を顧客側が肩代わりするという発想が出来るかもしれません。

あくまでも想像の世界ですが、例えば和訳の場合において考えられるのは、依頼するクライアントの内部には日本語のネイティブが山のようにいます。ライティングができるか否かを度外視して考えれば、そこそこの和訳品を安価に購入し、内部で日本語を洗練する…というアプローチだって出来るかもしれません。

安価なサービスが生まれると、「質」を楯に議論が沸きあがるのが常ですが、その質を見る視点を複数持っておく事が大切だと思います。それは、己の価値を何処に置くのか、どの方向へ自分を導くのかという考え方に繋がっていきます。


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翻訳料の決定方法の傾向

私の気まぐれなアンケートに22名もの方がお付き合い下さり、ありがとうございました(6/12日現在)。

また、Twitter を通して色々な情報を頂き、目から鱗の思いです。

結果(6/12途中経過)は、以下のようになりました。

翻訳者の方々、それに翻訳会社の方々にご回答頂いているので、少し設問を工夫すべきだったと思います(思いつきとテストでやったアンケートなので多少は仕方なし)。翻訳会社側の立場で投票しようとすると、多分「どちらもある」とせざるを得なかった可能性が高いと、後から考えて思いました。

とは言え、このデータからは、「原稿の分量」(原稿の文字数/word数)で翻訳料が決定される方法が、現在ではかなり主流になりつつある事が明らかです。

Twitter 経由で頂いたコメントには、以下のようなものがありましたので、ここに紹介いたします。

  • 和訳は原稿のワード数で、英訳は完成のワード数。和訳も英訳も、お値段は英語の単語数。
  • エージェント経由の場合、和訳も英訳も完成ベース。直接(or 半直接)受注時は原稿ベース。
  • 直接受注の場合はこちらから見積を出すので、その際双方が納得しやすい方式(原稿ベース)を提案しています。
  • 私のエージェントは出来上がり原稿(完成ベース)での文字数計算が殆どです。これだと、翻訳が出来上がってみないといくらかかるかわからないので、直受けの翻訳は元原稿の文字数で見積もりを出しています。
  • 仕上がりベース×1、時間ベース×1、残りは原稿ベース。私の唯一の出来上がりベースの取引先は「1枚」単位(200ワード/400字)です。
  • 自動でカウントできない原稿の場合、完成分量で 200words/400文字を1枚としてカウントするところが、(まだ)ある。
  • 方式が混じるのもめんどくさいから、従来型のところは原稿ベースに移行しにくい背景もある。

こうして見てみますと、やり方は様々で、結局取引先が決めたやり方に従って翻訳料金が決められていると言う事になります。また、業界標準と言われるような標準的な方法が存在する訳ではなく、大きな括りとして従来されている「完成分量方式」と、徐々に主流になりつつある「原稿分量方式」が存在しているという事のようです。

このデータは Google Document ととしてシェアしておりますので以下のURLからご利用ください。
翻訳料は原稿分量?完成分量?データ