5月某日某社にて WildLight 社内セミナーをさせていただきました。その時に「おまけ」として話した「チェックシートは品質保証にあらず」をここでも紹介します。
品質問題が発生すると「チェック(マーク)をつけよう」とか「チェックシートにしてチェックさせよう」という発言をする人を良く見かけます。あたかもそれが品質対策の一般常識のような勢いで、まことしやかに登場する「チェックシート」ですが、私は品質対策として期待通りには機能しない代物と考えています。
人間には、規則的連続動作を繰り返すことで、無意識でも同じ作業を繰り返し行うことができる「手続き記憶」の能力があり、製造業のポカミス対策では、その能力を利用した方法を行っています。例えば、複数箇所のビス(Screw)締め作業の場合、「ビス締め忘れ」(ポカミス)を防止する手段として、ビス締め順番を決め、その順番に沿って作業をするという指示を作業手順に盛り込みます。これは、作業実施者がその決められた順番で繰り返し作業する事で、その作業手順が手続き記憶として記憶され、積極的に意識をしなくても(無意識でも)決められた作業手順通りに作業が行えるようになります。ここで重要なのは、もし、作業している中で1本のビスを忘れてしまった場合、手続き記憶との不整合が発生し、作業実施者にはその部品忘れ、作業忘れが「違和感」として認識できるという点です。つまり、かなりの確率で自分のミスを自己検出できることになります。
この手続き記憶が、チェックシートにはマイナスに働きます。チェックシートの目的は、何かを「確認」し、その証拠を「記録」することですが、そのフローを大まかに書いてみると以下のようになるでしょう。
- チェックシートの確認項目を読み、理解する
- 確認する(チェックする)
- 結果をチェックシートに記録する(レ点を付ける)
このフローの中で、手続き記憶が関わるのは3のみです。1と2は精神的プロセスなので肉体的動作を伴わず、手続き記憶として記憶に定着しません。また、精神的プロセスを必要とする作業項目は人間の意識に高く依存していて、人間が意識的に思い出し、また意識的にそれを脳内で実施しない限り簡単に欠落してしまいます。つまり、無意識に動作完結する物理的作業と、継続的意識を必要とする精神的プロセス作業が混在していることが、チェックシートの品質保証上の意味をぐらつかせていると考えるのです。
トラブル発生直後のチェックシート(チェックマーク付け)追加は、問題が新鮮であるが故に意識面で緊張を与えるため、その緊張が緩和されるまでの間、精神的プロセス作業は正しく再現され品質保証の効果を示します。しかし、その緊張が途切れた時、手続き記憶された物理的動作は継続されるものの、精神的プロセス作業は行われなくなるのです。現象として何が起こるか? それは、確認行為がされていないのに、チェックシートにレ点がついているものが出てくるということです。つまり、作業実施者の頭の中では「チェックシートへレ点をつける作業」に置き換わってしまったということです。
このような背景から、品質保証のために「チェックシートを実施する(チェックマークを付ける)」という発想はとても安易ですし、余計な作業工数が増える割に効果が無いことになります。
ただし「チェックシートにする」目的が、検査・確認する項目が標準化されておらず、それらをリスト化し明文化するのであれば、話は違います。「チェック内容とその基準が明確に指示されていない」という問題への対策となりますから、 品質保証上、重要となります。(ただ、チェックシートじゃなく、作業手順書で良いわけです)
さて、ここまで書いてしまうと、「チェックシートなんてやったって、品質が良くなる訳じゃないんだから、やらないよ!」という話をされてしまいそうですが、チェックシートには「記録」の意味があります。品質管理上の「エビデンス」という位置付けが大きいです。ISOや社内規程の要求事項として「品質記録」に位置付けられている場合は、品質管理上、必要です。
要は「チェックシート」もツールですので、その目的が何か?を正しく理解し、その目的に合った正しい使い方をすることが大切です。少なくとも「品質を良くするためにチェックシートにチェックマーク付けさせて…」という、ツールの特性と目的がアンマッチな発想だけは、避けたいものです。