Kindle本「字幕翻訳とは何か?」の出版記念で開催された日本映像翻訳アカデミー(JVTA)の「グローバルスキル能力開発ラボ2018」へ、台風が首都圏に迫りつつある9月30日(日)に行ってきました。
この能力開発ラボは、3週連続で開催され、私が参加したのは最終日。以下のトークセッションを聞いてきました。
- 第一部:字幕翻訳の仕組みを解く「字幕翻訳とは何か 〜1枚の字幕に込められた技能も理論〜」出版を記念して
- 第二部:肉じゃがをマカロニ&チーズと訳す理由 〜映像翻訳はどうやって文化の壁を飛び越えるのか〜
第一部の最初に、JVTA代表の新楽直樹さんのお話がありました。
(映像の)業界はどんどんと拡がっており、IT系経営者に聞いても「映像が当たり前」の世の中に変わりつつある。また、翻訳者とクライアントの関係に変化が生まれている。翻訳者から遠い存在だった最終視聴者との距離が近くなってきていて「翻訳者=最終視聴者」という形になっていくというお話をされていました。
これはどういうことかというと、翻訳者と、間に入っている制作会社の関係が変わってきており、昔は制作会社が高い知識と経験を持ち、どちらかと言えば制作会社が翻訳者に細かく指示をし教育するような形であったが、今は逆転状態になっていて、間にある制作会社は仲介業者的に「知識や経験がないから委託する」という立場になっており、そのため、翻訳者とクライアントが直接コミュニケーションするスタイルになりつつあるということのようです。(なので、距離が縮まったと)
この話を伺いつつ思ったのは、制作会社が仲介しかしないということは、クライアントに対する品質責任をすべて翻訳者が背負うことになるということ。エンドユーザーの生の声が聞けるというメリットがある反面、担う責任が重くなるのでしょう。
なんだか、もやもやしてきますね。新しい翻訳者がどんどん市場に入ってきているのは昔と変わらないので、翻訳者層の知識/経験は昔と大きく変わらない。そこに手当てがないままにエージェントが変化しているのは、業界自体がまったく追従できていない印象を持ちます。これは翻訳会社も同じことですね。
「知識と経験を持つ翻訳者」しか相手にしないのですから、翻訳者に格差が生まれるのは当然です。「できる」翻訳者しか相手にしない。そして「できる」とする水準も昔より高くなっている。下からは機械翻訳が迫り来る。食べていける翻訳者になる道は、昔より険しくなっているのだと改めて思いました。
新楽さんのお話の後、執筆に携わった方々3名によるパネルディスカッションがありました。本の内容に関して説明がされたのですが、この本、字幕翻訳に特化して書かれているものの、翻訳の本質にも触れていることがわかり、会場で即座にポチりました。242ページと読み応えがありそうです。
第二部は、藤田彩乃さんとキャッチポール若菜さんによるパネルディスカッションでした。私は、こちらのセッションを聞きたくて参加。
おふたりともお話しが上手で、まったく飽きることなく時間があっという間にすぎました。いくつか映画のシーンから台詞を取り出して、どう翻訳するかを会場に問い掛ける形でセッションは進みました。
いゃ、映像翻訳って奥が深くて、本当に面白い!
おふたりの言葉に対する感度の高さと言葉の引き出しの多さに舌を巻きました。本物に触れる感動とでも言いましょうか、そんなものを感じたセッションでした。
翻訳にまつわる面白い話がいろいろと出てきて興味深かったです。映画の日本語タイトルは長いものが多いとか、説明的であるとか、言われてみれば確かに!。最近は映画やドラマのネット配信が増えてきたこともあり、わからなければ止めて見直せばいいという風潮から、字幕の文字数制限が緩くなっているとか、固有名詞の取り扱いも変化しているとのこと。
とても刺激になったので、今後も映像翻訳に関するセミナーがあったら、参加したいと思います。