翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


のらりくらり力

話をしていて、どうも要領を得ない人っていますよね?

色々と質問しても、話が要領を得ず、のらりくらりと話をされ、だらだらと時間ばかり浪費させられる。自分の仕事の相手がそうだと、かなりイライラさせられるものです。

概ね、企業の中で仕事をしていると、目的や意図を明確にした会話を求められ、訓練させられる筈です。話の筋の読めない会話をしていると、無能呼ばわりされるのが落ちです。

私が以前持った職場の部下で、意図的にそういう「のらりくらり」とした話し方、対応の仕方に切り替えられる人間がいて、凄く感心した事があります。それ以来、私も交渉術の一つとして取り入れています。

単純に言えば、意図的に無能を演じる訳です。ただ、単純にボケる訳ではなく、主題を話の枝葉に沿って縦横無尽に逸らしまくる訳です。

交渉を敢えて遅らせるとか、決裂させるとか、腹の内を晒さないとか、色々と目的があっての対応な訳ですが、当たり前の事として、時間的制約のある交渉事に有効なわけです。

「交渉事は馬鹿正直ではダメ」と言う事ですね。

実は伝えたいメッセージは、そんな事じゃなくて…

ちょっと思い返して欲しいのです。

日頃、余りにも正攻法で攻めていないか?と言う事。
誠意を持って事に当たるのは、相手次第ではないか?と言う事。
自分がスマートである事を演出する必要のない相手ではないか?と言う事。
継続的な付き合いを望む相手なのか?と言う事。

意外と「当たり前」の意識は細分化して見ると当たり前でなかったりします。

何事も思考を巡らせている対象(相手)をよく見て、目的を考えた対応をするのは、大切だと思いますね。


最初から100%を目指すと言う意識

一ヶ月ほど前、私はこんなツイートをしたことがあります。

「製造の現場では当たり前のことですが、チェックを入れても不良品はすり抜けます。極論、チェックに100人掛けてもすり抜けます。大切なのはミスが出ない仕組みづくりを考えることです。これは翻訳も同じ事がいえます。「後で直せばいい」という考えは間違っています。最初から一発OKを目指すべきです。」

これは理想論だよ…と仰る人もいます。そう言った途端に、この話はおしまいです。本当の品質改善なんてできるはずもありません。事実、製造業で「最初から全て一発OK」を成し遂げているところはないと思います。但し、極限まで近付ける事は出来ています。

何につけても「研ぎ澄まされる」には、高い次元の目標と意識、意欲があってなされるのですから、そこに自己妥協を持ち込む隙を与えないように努めた方がいいですよね。

以前、スペルは(正確に)覚えよう…という主旨のブログ記事を書きました。私は社内翻訳者時代に発音とスペルを関連付け(完全一致ではないが)、タイピングして手続き記憶としても身に付けるというやり方をしていました。それは一発で正しいスペルを素早くタイプすることが目的です。

間違ったまま、後で修正するという考え方は以ての外ですし、スペル確認の為だけに辞書を引く手間も省きたい。正確に覚えちゃうのが早いです。

一文書内に登場するユニークな英単語の数ってどれくらいだと思いますか?その文書の分野と長さにより差が出ますが、以前、データを採った時の記憶では、少ないものは数百から多いものでもニ~四千語くらいだったと思います。専門用語や固有名詞を除くと、使っている単語数は意外と少ない筈です。

これは一例ですが、何事も「最初から全部一発OK」を目指すと、いろいろと対応手段を考える事ができるので、先入観に捉われず、果敢にチャレンジする事が大切だと思います。それがいつぞやは「自分流」に繋がって行くのだと思います。

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【おまけ】手続き記憶に関して
手続き記憶は短期記憶ですが、繰り返し行うことによって長期記憶として定着します。

生産ラインで製品組立を行った経験のある方は分かると思いますが、作業はすべて決まった手順で覚えます。それにより一連の作業が手続き記憶として定着します。
この記憶の良いところは、同じ作業を効率的かつ正確に繰り返すことができるようになる点です。加えて重要なのは、異質なもの、異常な動作や感覚を感じ易くなり、問題を検出し易くなります。
先のタイピングの例ですと、ミスタイプしたことが自分で認識できるのです。これは、スペルチェッカーで認識されない単語のミスタイプにはとても有効でした。


円切り単価とは縁切り

先日、翻訳業界の長いお二人の重鎮(笑)と夕食がてら雑談をしていて、「翻訳単価に小数点を使ったものを殆ど知らない」という話しを耳にしました。

原稿の文字数・ワード数で翻訳料を支払う「原稿分量式」。業界調査によれば、翻訳会社の半数以上が既に移行し、今後さらに移行が進んで行くだろうと推測されます。この「原稿分量式」へ移行する上で、単価体系にかなり悩み、結果、小数点第一位を持った単価方式にしました。

市場の翻訳会社のレート体系を調査したり、私の知る翻訳会社経営者や翻訳会社関係者、それに個人翻訳者さん達にインタビューして、単価に小数点を持ったものが殆どないという事実を知っていましたが、それでも小数点を持った単価方式を採用するに至った理由を以下に述べたいと思います。

まず、結論からいうと以下の3点が、その判断の主な理由です。

  1. 1円単位の刻みでは、粗利の振れ幅が大きくなり過ぎる。
  2. それにより、計画された粗利を確保するために、翻訳者のレートが大きく切り下げられる可能性が高くなる。
  3. 将来的に消費税率が変化した場合、1円刻みの単価では対応が難しい。(内税の場合)

これらを回避するためには、小数点を持った単価体系が必要なのです。

【設定レートの面から見てみる】

以下に例を挙げてみます。あくまでも「例」ですので、想定した数字や率に目が釘付けにならないで下さい(笑)

仮に翻訳者さんの単価を、日英翻訳で文字単価9円だとしましょう。そしてエージェントの販売価格を18円とします。つまり、エージェントの粗利を50%で想定します。

では、ここで翻訳者さんの単価を、9円から10円にアップする事を検討したとします。

単価を10円にするという意味は…

  • 仕入れが 11%のアップ
  • 粗利率は、50.0%から44.4%へダウン

という事になり、実に粗利率へのインパクトは、5.6%にもなります。

この「1円刻み単価」では、仮にそのエージェントが粗利率45%以下は認めないなんて社内基準があるとすれば、単価10円のところを9円で抑え込まれる事になる訳です(実際はこんなに四角四面な運用ではない筈ですが、理解し易いようにそう仮定します)。この1円の差は、翻訳者さんの受け取る報酬で見ると、10,000文字の案件であれば、10,000円の収入の差になるわけですから無視できません。

私が一番問題だと考えたのは、翻訳者へ利益を正当に還元する事が不可能になるという点で、故に「1円刻み」単価ではダメだと考えました。もっと細かく刻んだ単価設定ならば、経営的に許される最大値まで単価を上げられるのに、1円刻みではバッサリと切るしかなくなってしまう。

仮に小数点単価にした場合、上の例でいえば、単価 9.9円でレート設定される可能性があるという事です。

【消費税率の取扱いの点から見てみる】

世間では内税式の単価が多いように聞きました。この意味はご存知の通り、以下の通りです。前出の例を基に説明します。(消費税等の部分は切り下げで計算しています)

  • 設定されている単価(含む消費税等) = 9円  その内訳は…
  • 税抜き単価 8.6円 + 消費税等分(5%) 0.4円 = 9円

この段階で、既に小数点を持たないと計算が成り立たない点から考えても分かる通り、(特に内税式の場合)小数点を含む単価設定にしないと、システムとして破綻するということが分かると思います。

消費税率は今後、上昇する訳ですが、例えば8%、10%になった場合、現状設定されている単価がどう変化して行くのかを以下のとおり示してみました。

  • 税抜き単価 8.6円 + 消費税等分(8%) 0.6円 = 9.2円
  • 税抜き単価 8.6円 + 消費税等分(10%) 0.8円 = 9.4円

報酬単価が上がらない前提で話をすれば、消費税率が変わる段階で、小数点単価体系に移行しないと対応ができなくなるという事です。ここでのポイントは、消費税率変更に伴って、税金分の支払いが増えるのだという事つまり、内税単価の場合、単価が上がるのだということを理解しておいてください。

【翻訳者として交渉の材料につかうべし】

  • 1円単位での単価上げ交渉は、エージェント側への経営的インパクトが大きいので、コンマ1円単位での交渉を試みてみる。エージェント側のシステムが対応できるようなら、単価上げを獲得出来るかもしれない。
  • 将来予定される消費税率変更に対応して、小数点単価体系に対応できるエージェントが増えくると想像するので、この交渉手段は使える可能性が高くなるかもしれません。

【消費税率引上げ時に注意して欲しいこと】

それは、単価が内税で設定されているのであれば、上記の通り、単価が税率に伴って設定し直されるということです。

もし、そのエージェントが、消費税率が変わったのに同じ単価で支払いをしてくるような事があれば、それは単価を引き下げているのと同じ意味ですので、徹底的に交渉する必要があります。「いやぁ、うちのシステムが対応してなくて、いまのままで…」なんて不条理な言い訳をしてくるエージェントには、「(そういう事態になる事は万人が予測出来たのに)システム対応をしていないのは企業側の不手際であり、翻訳者側の報酬を減額される理由にはなり得ない」という点を、しっかりと理解した上で交渉して欲しいと思います。対応してないなら、円単位で切り上げろ!という事です。上記の例なら9円から10円にしろ!という事です。

「変化」は得てしてマイナスイメージが伴いますが、「変化」こそチャンスです。論理武装をしっかりして単価上げの材料に使うくらいの意志を持って勉強し、取り組みましょう。


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レート構造

以前から「効率化」というキーワードは、レートに並んで良く話題に上がるものの、そこから来るイメージがツールであったりマクロであったりと、妙にハードルの高さを印象させられることが手伝って、具体的な行動へ結び付けるのに二の足を踏んでいる人が多いように感じています。また、概ね翻訳関連の作業ばかりが注目され、それ以外の話になると途端に興味を示さない方が多いように思います。

効率化と言うと、直感的に「時間」を印象すると思いますが、それは最終的には「お金」に繋がります。

翻訳単価を元に計算された報酬は、納めた翻訳物に対して支払われるわけですが、翻訳物は翻訳作業だけでつくられたわけではありません。多分、この辺りに意識の違いがあって、翻訳行為に対する対価と思い込んでいる人も多いのではないかと思います。

実際は、翻訳物を完成させる上で色々な作業が関係しています。

  • 交渉/折衝
  • 見積作業
  • 事務処理
  • 原稿確認、加工、事前準備
  • 翻訳作業
  • 調べもの
  • 品質確認
  • 体裁/編集作業
  • 納品作業
  • 請求行為
  • クレーム対処

ざっくり書いても、これだけの作業が一案件完了するまで関係してきそうです。

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このグラフはイメージです。支払われている単価のコスト構造は、このように翻訳以外の作業が多く含まれていると言えます。

例えば単価10円で、ある分量の仕事を請け、結果的に以下のテーブルのような時間をかけて完成されたとすると、実際の翻訳作業に対する単価は、こんな感じになるということです。翻訳、調べもの、品質確認を翻訳作業と定義付けるなら、この例であれば、実質的な翻訳単価は 7.5円と同じことになりますね。

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(このエクセルシートは公開しますから、青背景セルの数字を各人の実際に合わせて変更してみてください。自分の翻訳単価の構造をイメージ図にできると思います。→ RateChart.xlsx )

翻訳やそれに伴う調べものに対する効率化の話は多く聞かれ、ツールをはじめとしたいろいろな策を目にします。しかし、それ以外に掛かる作業時間を削減することも単価を高める事に繋がり、同様に重要なのです。例えば事務処理にみられる見積書や請求書の作成と発行といった作業も、少なからず時間リソースを消費しているわけですから、甘く見ずに効率化を行っていく必要があるわけです。

いま一度、自分のレート構造はどうなっているのかを眺めてみると面白いと思います。


無駄なものなんて何にもない

古いアルバムをパラパラめくり、昔の写真を見ていると、その当時の恥ずかしい自分が脳内で再生されて、かなり落ち込む。

昔の自分は掻き消したいくらいに、思い出す事が辛い…。だから、あまりアルバムを見るのは好きではない。

ただ、同時に思い出されるのは、当時自分がやっていたこと。

「あぁ、この頃は毎週末、メイクアップの学校に通ってた。徹底的にセンス無くて凹んでたな」とか「早朝からTV会議で通訳して、昼間は内部打合せに調整、深夜遅くまで翻訳して死にそうだった。日本に居ながら寝言が英語になってた頃だ」とか、過去に自分が経験してきた事を色々と思い出す。

いま、私の年齢になってつくづく思うのは、それらの経験のどれひとつをとっても、無駄になっていないと言う事。

今の自分に繋がる布石になっていたり、今の仕事のあらゆる所で自分をサポートしてくれている。

20年前に今の自分を想像できただろうか?…全く想像できない。当時の自分のキャリアパスとは全く違う異業種に現在は就いている。

つまり、今、自分がやっている事さえ、将来の自分にどう繋がるかは分からないって事だ。

今の仕事は、実は全てがそれまで経験してきた職務経験のお陰で成り立っている。語学力も翻訳力も、経営管理も品質管理も交渉術も、全てのベースはそれらの経験。

でも、それらを経験している時は、それが後の自分にどう生かされて行くのかなんて、考えてもいなかった。

経験した事が無駄になんてならない。

  • 今、目の前にある事に真面目に取り組もう。それが大切だと思う。
  • 自分のやりたい事とは違っても、真面目に取り組む事が大切だと思う。
  • 面白いと思ったら、躊躇しないでとにかくやってみよう。
  • 不可抗力的に経験させられる事、自ら飛び込んで経験する事、どちらにおいても大切なキーワードは「真面目に取り組む」ことだと思う。

    その意味は、単位時間当たりの経験密度を高くせよ…と言う意味。適当にやるのと必死でやるのでは、その密度は大きく違う。投資する自分の時間は同じなのだから、その価値を高めるに越した事はない。

    「石の上にも三年」という諺がある。

    この「三年」を私はひとつの区切りとしている。仕事が変わったら、兎に角三年は頑張って見る。その仕事の深くまで理解し、自分の仕事として応用力を発揮しながらこなせるようになるのが、それくらいの年数だと経験的に思うからだ。多分、この年数は個人差がある筈だが、私は「三年」一区切り。自分の意思にそぐわぬ事でも、それくらいの「留まり学ぶ」期間が必要だと思う。

    私がこの記事で言いたい事。それは…

    今、目の前にある事は好き嫌いに関わらず、真面目に取り組めよ…と言う事。無駄な経験なんてひとつも無いのだという事。経験は自分の引き出しの数を増やす事になるのだという事。そして、スティーブジョブズ氏のスピーチじゃないが、経験と言う点と点が、将来、線で結びつき、自らの生き方を支えてくれる原動力になる。