翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


JATセミナー「出版翻訳:スティーブ・ジョブズ翻訳の裏側」

2月18日土曜日に、日本翻訳者協会(JAT)主催のセミナー「出版翻訳:スティーブ・ジョブズ翻訳の裏側」が開催され、伝記本スティーブジョブズの翻訳者である井口耕二さんが講演されました。

今回の講演は75分と言う十分な時間設定もあり、どんな裏話が聞けるのか、とても楽しみにしていました。

仕事の流れに沿って、時系列でお話を進めていかれましたが、お陰で、我々が実感的にジョブズ本の翻訳のすざましさを理解するのに、大いに役立ちました。

精神的にも肉体的にも、ギリギリのところで勝負をされていた話を聞くと、緊張感、切迫感がひしひしと伝わってきます。それに反して、井口さんの語り口は静かに眈々とされていて、凄くいいコントラストになっていました。

今回の講演はビデオ撮影されていたので、きっとJATのホームページで会員へ公開されるのでしょう。講演に参加できなかった方は、ご覧になる事をお勧めします。非常にためになったし、面白かったです。

細かな講演内容はビデオで観て頂くとして、ここでは私が何を感じたかを書きたいと思います。

簡単に言えば、「プロの仕事、職人の仕事」と言う事に尽きます。

・自分がやりたい仕事を採りに行く姿勢とアプローチ。
・そのために日々蓄積していくべきもの。
・その内容は多岐に渡り、高次元にマネージメントされている。
・即座の脳内シミュレーションと決断が出来たのも、そういう蓄積の成せる技。
・色々な物事を熟考し、しっかりとリスクマネージメントがされている。
・仕事の進捗しかり、自分の健康管理しかり。

仕事量の全貌が分かっていない状態での業務負荷の想定や、原稿遅延による日程圧迫への対応の考え方、契約で決まっていた出版日程でさえ前倒しになっても、そこへ対応する策。体調不良に陥らないための健康管理。

とても深いリスク管理がそこにあり、プロとして仕事を破綻させないと言う強い責任感と管理技術を、講演を聞きながら感じていました。

ご本人はいつもされている事で、きっと「当たり前」と感じておられるのだろうと想像するのですが、翻訳を仕事にしている人のみならず、どんな仕事においても、とてもためになる考え方や技が隠されているように思います。

交流会で、井口さんに冗談半分でお話ししたのですが、ジョブズ本の翻訳において使われた色々なマネージメントを、本にされたらどうでしょう?と(笑)

ビジネス書として十分に通用しそうに思うのです。私は、そんな本が出たら、サラリーマンに読ませたい。リスク管理の部分に関しては、とても学ぶものが多いと感じました。

うちの新人コーディネーターも講演を聞きに来ていましたが、この意見には賛同してくれたので、サラリーマンは飛び付くネタかも知れませんね。