翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


本日!! JATセミナー「今日から翻訳生産性をターボブースト!」

本日21日14時より、渋谷フォーラム8にて、日本翻訳者協会(JAT)主催のセミナーが行われます。

タイトル:今日から翻訳生産性をターボブースト!
講演者:山本ゆうじさん
詳細は、JATホームページをご覧下さい。

事前登録なしで参加出来ます。JAT会員無料。非会員 1,000円。今日、時間がある方は参加されてみては如何でしょうか?

なお、今回のセミナーは初めての試みとして Ustream 放送でライブ配信がされます(但し、JAT会員のみを対象としたパスワード制限された放送になります。パスワードはJAT MLで既に連絡されています)。地方在住のJAT会員には嬉しい試みだと思います。今日は技術支援(になるかどうか分からないけれど)で私も現地入り致します。

現地で見掛けたらお気軽にお声掛け下さい。

USTREAM放送:



Free desktop streaming application by Ustream


東北博の誤訳問題を斬ってみる

「東北博」ホームページの誤訳が報道(参照:朝日新聞サイト)されて以来、 Twitter 上の翻訳関係者の間で、この話題で賑わっています。報道によれば、「東北博」ホームページの外国語ホームページに多くの誤訳が見つかり、13日に修復の為にサイトが閉鎖されたとの事。(東北博覧会の英語サイト)

(具体的な誤訳例(出典):朝日新聞デジタル)

今回の誤訳問題の本当の原因背景は分かりません。少なくとも、問題の東北博の他言語ホームページ上に「This page is translated using machine translation. Please note that the content may not be 100% accurate.」と表記がある事から、機械翻訳を利用した翻訳物であるという事は間違いないです。また、以下に引用した記事を読むと、その機械翻訳品がそのまま最終翻訳品として使用され、当事者達のチェック・修正もされないまま公開された事が問題のようです。

翻訳業務は、HP運営を担う業者が東京都内の専門業者に再委託した。日本語版を作成すると、自動翻訳される仕組みになっていて、東北特有の固有名詞が辞書機能に無かったのが原因だという。外国語版のHPには「機械翻訳のため、100%正確でない」と断り書きを添えていたが、観光庁も業者も翻訳結果を確認していなかった。観光庁観光地域振興課は「自動翻訳の誤りを見つけるボランティアを募り、総力戦で翻訳ミスを修正し、4月下旬には外国語版を再開したい」と話している。(河北新報 4月14日(土)6時10分配信より引用)

この記事から分かる事は以下のような事です。

  • 「観光庁−HP運営業者−翻訳会社」という図式で、仕事がなされている。
  • 日本語版を自動翻訳している。つまり、機械翻訳の結果がそのままHPに表示される。
  • 地方特有な固有名詞が辞書になく、適切な訳が出力されない。
  • 依頼元の観光庁もHP運営業者、翻訳業者のどれも、翻訳結果を確認していない。

また、他の記事等を読み進めると、以下のような事も書かれています。

  • 翻訳会社が、実行委員会に固有名詞の一覧表の提示を申し入れたが、受け入れて貰えなかった。(ソース)

今回の問題は、秋田県など外部からの指摘で発覚したようですが、この事は、ホームページの最終使用者(読者)による指摘であると考えるならば、市場に受け入れられない翻訳仕様であったという事が言えます。では、この最終仕様を決める責任を持つのは誰か?というと、発注者です。今回の事態の責任という点だけを見ると、発注者の責任だと言えるのではないかと考えています。

ただ、考えなくてはならないのは、概ね発注者は「翻訳」という商品の性質も性格も理解しない場合が多いのです。「翻訳」というものを一般の人々が正しく認識できていない事が大きく関係している訳ですが、とかく言葉の「置換」であるという誤認識をされているケースが多い。そういう認識の元で最終仕様を考えた場合、どうなるでしょう?「固有名詞の一覧表の提示を受け入れて貰えなかった」という点から考えても、発注者はそこに重要性を感じておらず、一体、一覧表がないと最終翻訳物へどのような影響を及ぼすのかを認識していないのが分かります。

我々、翻訳業界側の人間として考えたとき、何よりも問題なのは翻訳会社ではないかと思うのです。「翻訳」を職業とし「翻訳のプロ」「言葉のプロ」として仕事をしている翻訳会社側が、何故、プロとして、海外に対して情報発信するホームページにふさわしい翻訳となるよう最終仕様を、発注者側に提案しなかったのだろうか?説得しなかったのだろうか?と疑問に思うのです。確かに、発注者側に押し切られる事もあります。でも、そのまま仕事を請けてしまう事によるリスクを考えたのでしょうか?ましてや、このケースは多くの人の目に触れるホームページです。いくら「機械翻訳なので100%正しくない」という但し書きを付けたとしても、市場が受け入れなければ、その責を問われるのはやむを得ないでしょう。昨今は、道義的責任も企業は問われます。そう考えていくと、発注者にそのままで良いと押し切られて「はい、そうですか、では、その仕様でやります」という判断にはならない…しては、ならないと私は思うのです。その辺りの判断を、一体、この請け負った翻訳会社はどうしたのだろうと非常に興味があります。

私はこのケース、翻訳会社側の責任も結構大きいと思うのです。

それから気になるのは、当事者が「発注者」「HP運営業者」「翻訳会社」と3者いる訳ですが、誰も最終翻訳物の確認をしていない点です。仕事として誠にお粗末です。私は昨年、JTF主催の翻訳祭で講演した際、「クライアントさんよ、翻訳会社を良きパートナーとして捉え、相談して共に良い翻訳物を作って行こうという姿勢で取り組んで下さいよ」という趣旨のメッセージ出しをしました。この背景は、まさしく上記したクライアントの認識している最終仕様を、我々翻訳のプロの意見やアドバイスを吸い上げて、最終読者(最終使用者)の満足する翻訳仕様に可能な限り近づけるために、我々をもっと積極的に使ってくれ!という意図があったからです。

今回のケースを見ると、どうも、この3者間ではそのようなコミュニケーションが取れておらず、3者とも自己完結型の仕事に終始しているのではないかと勘ぐってしまいます。

さて、ここで「機械翻訳」について、私が考えている事を書きたいと思います。

「機械翻訳」という言葉の印象は、報道等を見ていると、世間に誤解を与えているような印象が拭えません。そこで、ちょっと極論で言いますが、一般の方々に正しく理解頂きたいと思うのは、機械翻訳物は「中間完成品」だという事です。技術が進歩しているとは言え、まだまだ100%ではなく、訳間違いもあるのです。機械翻訳の後、各種のチェックと修正を経て、初めて販売できる最終翻訳品が完成します。

機械翻訳した中間完成物を最終翻訳物として利用するケースも増えてきているものの、その場合は、例えば読者が限定される社内文書であるとか、ニュースなどの即時性を求められる情報、とりあえず意味の把握に使用する文書など、その使用領域は限定されると考えています。限定読者や情報の一次的伝達という目的において機械翻訳物をそのまま利用する事ができるでしょう。

今回のケースは、観光促進を目的としたホームページの翻訳ですが、さて、その目的に機械翻訳品は正しい選択なのか?概ね「No」と判断する人が殆どだと思います。つまり、機械翻訳物は目的に適していません。やはり、機械翻訳という特性を正しく理解し、その上で適用できる文書分野、情報分野を吟味した上で「機械翻訳物」のそのままの使用可否を判断するのが大切だと思います。

最後に、この翻訳は無償で翻訳業者が請け負ったそうです。被災地復興の手助けになればという思いからだったのでしょう。まさか、そんな事はないとは思いますが「無料だから質が悪くてもいい」という意識が働いていない事だけは祈りたい。一般論として「無料、もしくは通常より低価格だから品質は悪くてもいい」は大間違い。価格に関係なく、質の悪いものを世に出すのは、その翻訳者、翻訳会社にとって命取りになります。

翻訳の手直しもボランディアを募ってやると記事には書いていますが、私の伝手で得た情報ですと、有償で翻訳者に修正作業をさせようとしているようです。ただ、その費用を観光庁が負担するのか、その翻訳会社が泣くのかは分かりません。

関連リンク:


英語以外は苦労が絶えない?

うちの取扱言語で一番多いのは、圧倒的に「英語」。これは多分、他の翻訳会社でも同じ状況だろうと思います。国際共通語と言う位置付け故に当然の事だと考えますし、不況になると他言語の翻訳は止め、「取り敢えず英語へは翻訳しておく」と言うクライアントの発注の仕方から見ても、それが理解できます。

従って、英語以外の言語の翻訳取扱量はかなり少なく、その量も景気の影響を受け易い。二番目に取り扱いの多い中国語を除くと、ほぼ年間に数件と言うオーダーにまで落ちてしまいます。もっとも、これはうちのクライアントの特性によるものなので、一般的にそうであると言う事ではないですが、少なくとも言えるのは、英語以外の言語の翻訳取扱量は英語のそれより遥かに小さいと言う事です。

同時に、それらを取り扱える翻訳者はどれ位いるのだろう?と言う疑問が頭をもたげるのですが、私にはそれを知る術がありません。需要と供給のバランスがどのような状況かによって、その言語における翻訳者の環境が大きく違ってくるのだと思います。

今回の翻訳者インタビューで、有難い事に中国語系翻訳者の方とお話ができました。そこには、英語以外の言語で翻訳の仕事をする事の難しさのようなものを感じ取る事ができたと思います。また、自分自身の思い込みを是正できました。

中国語には中国語市場の独自な事情があり、例えば大陸の翻訳者と価格で戦って行かなくてはならない環境にあります。絶対量の少ない(と思われる)翻訳案件を、そう言った大陸の翻訳者と奪い合う図式にあると想像されます。そんな環境の中で、国内翻訳者の強みは何か?を考えると、やはり日本語ネイティブであると言う事でしょう。その特性を生かし、和訳を取り扱う事が強みになるのではないかと思います。

取扱分野に関しては、少し違う考え方でアプローチした方がいいようです。仕事量も翻訳者数も潤沢な英語であれば、ゼネラリストよりスペシャリストを目指す事で、他との優位性を出して仕事獲得へ繋げるアプローチとなりますが、仕事量が限られる言語においては、むしろ積極的にジェネラリストを目指して取り扱える分野の裾野を広げ、より多くの仕事獲得していく必要があるようです。

翻訳者としての仕事をする環境を考えると、この「取扱い量が少ない」と言う状況が、その言語の翻訳を買い手市場にしてしまい、色々な面において翻訳者さん達を苦しめているように感じます。それは、時にエージェント側の対応や態度に現れる事もあるでしょう。案件分野を選べない絶対量のなさ、レート面での大陸価格との競合などが、色々な点に現れてくるようです。レートの面もそうですし、案件の依頼の仕方や依頼の内容などもそうです。また、エージェントの対応では、納品後にレートを値切られたというような話も、その一端だと思います。

今回のインタビューで英語系以外の翻訳者さんとお話が出来た事は、私の意識/認識を是正する上で非常に有意義でした。私自身が日英・英日翻訳者である事から、英語翻訳の環境を物事を考える土台にしていて、英語以外の言語翻訳の環境に沿ったものの考え方が全く欠如している事に気づかされたからです。このブログ記事で何かしら問題提起やアドバイスが出来れば最高なのですが、「べき論」は出来ても現実を理解した話が全くできない…そういう状態だと気づかされました。今後はこの穴を埋めるべく、希少言語の翻訳者さん達にも色々と話を聞いていきたいと思います。