翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


JTFセミナー「2秒×1000回=30分のなぞ」を聴講してきました。

5月25日に行われた日本翻訳連盟(JTF)主催の翻訳セミナー「2秒×1000回=30分のなぞ ~翻訳業務でのWordマクロ活用とWordのチューニング方法~」を聴講してきました。少し遅くなりましたが、感想を書きたいと思います。

講師は、Microsoft MVP for Word を受賞された新田順也さんです。

私の今年のテーマの一つが「マクロ」による翻訳業務、および翻訳完成品のチェック作業の効率アップ/精度アップで、独学ながら Excel VBAや Word VBA を勉強しているところなのですが、まさしく、その目的にピッタリなセミナーがJTFのホームページでアナウンスされたので、即座に申し込みをしました。

今回、セミナーを受講して思ったのは、マクロは実際のデモを見る事が一番大切。特にその効能を理解していない相手を説得するには、物凄く効果的な方法です。

セミナーではマクロのデモンストレーションが主で、話されたマクロの話は、新田さんのブログ「みんなのワードマクロ」を読むと、セミナーの内容に加え、更に深い情報を得る事が出来るので、そちらをご参照頂ければと思います。

セミナーを通じて感じたのは、新田さんのマクロに対する思い入れ、仕事に対する思い入れ、マクロを道具としてどう使いこなし、翻訳という仕事に活用しているのか…そういった想いを強く感じる事ができました。

心に残った言葉は以下のもの:
・Wordを支配する。
・ワードマクロは翻訳はしない。
・マクロは業務支援のツールである。
・使い方次第では翻訳者の能力を引き出してくれる。

全くの同感だ…と思いながら話を聞いていました。翻訳者が仕事をする上で、その原稿や翻訳物はほとんどの場合、Microsoft Office を使って作られているのが現状です。

仕事の玄人であるなら、道具を使いこなす事が職人への道だと言うのは、世界が違っても言える事ではないか?と思うので、Microsoft Office製品を使いこなす事は、意識して努める事なのだと思います。

そして職人は、道具を自分の使い易いように改善する…それがまさしくマクロなのだと感じました。

新田さんの言葉の端々に感じたのは、一貫して「マクロは道具である」と言うメッセージです。「手段を目的にする」「道具に使われる」と言った言葉がありますが、そうなってはいけないぞ!と言う警告だと思います。

マクロの設計思想にも、その考えは反映されているようで「主導権をWordに渡さない」と言う考え方には、とても新鮮さを感じました。

マクロはエクセル、ワード、パワーポイントに実装されているので、使い方によっては、我々の翻訳作業を強力に支援し、周辺作業を大幅に簡素化してくれる可能性があります。

新田さんが仰っていた通り「繰り返し作業、面倒な作業」をマクロに肩代りさせる事で、小さい無駄な時間の改善が、結果的に大きな時間的余裕を生み出す事になります。

翻訳者の付加価値は、「翻訳」する事です。それに付随する周辺作業時間は極論言えば無駄な時間ですから、それらを自動化により、極限まで減らす事によって、本来、費やすべき翻訳の時間を増やし、翻訳者としての付加価値を上げる…と言うアプローチは、とても正しい事だと思います。

マクロは「作業を自動化」してくれる訳ですが、それは作業を「スピードアップ」してくれるだけではなく、毎回「正確に」行ってくれる所がポイントで、品質改善にも繋がるという認識も持って、マクロ利用に積極的になるべきだと思います。

マクロがよく分からないと言う方は、一度、新田さんのマクロ講座を受講されて、そのさり気ない便利さに触れ、幸せな翻訳ライフに踏み込まれると良いと思います。

最後に、当セミナー開催前に採ったアンケート結果を話されていましたので、そのデータを以下に記述しておきます。

アンケート数 59
Q:ワードマクロ使った事あるか?
未経験 27
利用 1/4
作成 1/4

Q:TRADOSなどの翻訳支援ツールを使っているか?
1/3

セミナー参加者に無償で、マクロ(アドイン)が提供された。マクロが50点ばかり入ってる。

ずらずらとデモンストレーションして下さった機能は以下のもの:
テキスト貼り付け
ワードから英辞郎検索
1ページの行数調整
ページの余白調整
全角半角置換
半角全角置換
上付き変換
コメントの書き出し機能
フォルダー内のファイル名一覧
JTFスタイルガイドの適用


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Twitter名刺は必需品

まもなく、広島で開催されるIJETと言う大きなイベントを控え、あれこれと準備をしなくてはいけませんが、何よりも忘れないようにしなくてはならないのが、Twitter名刺。

Twitterでの交流が多い方は、いつもお使いの名刺とは別に準備しましょう。

よく、オフラインで戴いた名刺を眺めながら「この方、どの人だっけ?」と首をひねった事はないですか?

以前も書きましたが、Twitter名刺がネットワーク上の貴方と、実際の貴方を繋げる唯一の情報になります。

[Twitter上の貴方] [Twitter名刺][実物の貴方]

オンラインの知人達とオフラインで会う機会があるなら、そのオンラインの貴方と、実際の貴方をリンク付けする情報を相手に渡す事が大切です。

概ね、オフラインでの交流では、一度に多数の人々と交流する場合が多く、一人一人じっくりと話が出来る訳ではありませんから、貴方の事は印象に朧げに残る程度でしょう。

しかし、オンラインで深いコミュニケーションをしている人は、オンラインの貴方には強い印象を持っていて、明確に認識している筈です。その二つの貴方をリンクする役目をTwitter名刺に持たせる事で、オンライン貴方と実際の貴方が結び付き、強い印象のまま、実際の貴方も記憶される筈です。

フォロワーさん達が、Twitter上で貴方を認識する固有情報って何でしょうか?

アカウント名とアイコンでしょう。実世界ではどうでしょうか?名前と顔ではないでしょうか?でも、顔は知ってるけど名前は知らない人って多くありませんか?

それと同じ事が言えるのでしょう。アイコンは覚えてるけど、アカウント名までは覚えていない。つまり、Twitter名刺には、貴方のアイコン画像も、必ず入れるようにした方がいいのです。

そう言う理由で、私はアイコンを余り頻繁に変えるべきではないと考えています。(途端に誰だか分からなくなるから)

オフラインでの交流とその後の交流が効果的に行われるように、Twitterアイコンの入ったTwitter名刺を準備しましょう!…と言うお話でした。


JATセミナー「翻訳でメシは食えるか」を聴講してきました。

5月19日(土)に渋谷フォーラム8にて、日本翻訳者協会(JAT)主催のセミナー「翻訳でメシは食えるか」があり、聴講してまいりました。

講師は、特許翻訳の時國滋夫さんと金融翻訳の石川正志さん。

お二人の経歴やプログラムの詳細は、JATのホームページをご参照ください。

今回のセミナーテーマが、果たして翻訳で生計を立てられるのか?…という、職業として基盤となる部分の話であることから、かなり興味を持って参加しました。また、1か月前の前回セミナーの懇談会で、講師をされた石川さんと、このテーマに関して意見交換を行ったこともあり、どのような話をされるのかがとても気になっていました。

セミナーは石川さんと時國さんが交互に話をしていくと言う形で進められました。お二方ともお話が上手で、終始集中して話を伺うことができました。

お二人とも違うアプローチで、「翻訳者がメシを食う」ための策を、翻訳者の視点に立ってお話になりましたが、私は概ね以下のように解釈しました。

高い翻訳品質と深い分野別専門性を構築する努力を日々継続し、それを維持し、自らの翻訳者としての揺るぎない市場価値を確立する。また、その絶え間ない努力と高次元な実力に基づいた理性的な自信をもって、自らの職業価値を高く意識し、その価値に見合った価格で仕事を請ける。一方では謙虚な姿勢で地道な営業活動を行い、自らの価値を正当に理解し、それに見合った報酬で仕事を依頼してくれるお客様を継続的に探す。

そして、徐々に高いレートの仕事へシフトしていき、高い年収を得られる翻訳者となる。

こんな感じではないかと思います。

懇談会で色々な方とお話しする中で、低レート案件を断りつつ、高レート案件にシフトすることに成功した方がいたのを耳にしました。最初はやはりキツかったようです。

私はUstream放送でも何度か言及していますが、市場に存在する顧客には、幾つかのセグメントが存在していると思います。

低レートを要求する顧客と、高いレートで仕事を依頼する顧客の決定的な差は、翻訳の価値に対する理解度や、取扱文書の種類や質への要求度の差からきていると、私は考えています。

低レートな仕事には、そういう意識の顧客しかいないのです。そういう顧客と仕事を継続している限り、低レートに留まり続けるしかないでしょう。
何処かで路線変更し、自分達の仕事を正当に評価する顧客の仕事へシフトしていく、それが大切だと私も思います。

(*) 低レートな顧客セグメントは、いずれ、機械翻訳や安売り飜訳会社で埋め尽くされる筈です。そこに留まる事のリスクは意識しておく必要があると思います。

~~~~~~

以下、セミナーの中でお二人がお話になった内容で、私の記録と記憶に残っているものを羅列致します。一部、配布資料の引用もあります。私の解釈不足で正しく理解されていない部分もあるかもしれませんので、予めご了承ください。(特に、時國さんのお話を資料とメモから脳内で内容を正確に再生できなかったので、かなり割愛しています。)

来場者はどんな人たちか?

最初、会場に問い掛けてアンケートを採られた。(100名以上の来場者あり)

  • 翻訳経験年数:
    • 0年:15% 〜5年:20% 〜10年:20% それ以上:45%
  • 翻訳分野:
    • 金融:8% 特許:8% 他分野:70% 何でも:14%
  • 翻訳で生計を立てているか?:
    • 主業:80% 副業:20%
  • 翻訳の報酬に満足しているか?:
    • 満足している:15% していない人:85%
  • これからの人に、翻訳を仕事として勧めるか?
    • 勧める:15% 勧めない:45%
  • 自分の翻訳品質をどう思いますか?
    • 上:20% 中:35% 下:5%
  • 受注先:
    • 翻訳会社:20% ソースクライアント:15% 半々:20%

翻訳業界の現状

  1. 翻訳の低価格化
    • クライアントが翻訳料を値切ってくるケースが見られる。
    • 大手のクライアントの場合、購買部門が窓口となる為、質には認識を示さず、コストのみに重点を置く。
  2. 翻訳の低品質化
    • 東北博サイトやアインシュタイン本に見られるような質。こういった質が表に出ている。業界的に質の低下傾向にあるのではないか?
    • 提供を受ける過去訳品を見ても、品質の低下傾向がみられる。

低価格化、低品質化から、翻訳者の年収が下がっているのではないか?と推測される。

翻訳者の年収はどれくらいなのだろうか?

  • 感覚的に…400万~600万くらいではないかと推測。
  • 「翻訳でメシは食えるか?」…年収はどれくらいが必要なのだろう?
    • 一般論として…700万~800万くらい必要ではないか?

そう考えると、「これからの人に翻訳を勧められるか?」という点では、言い辛い状況になりつつある。

推定される原因

何故、低価格化、低品質化が起きているんだろう?
景気の低迷、デフレなどが原因で、価格下げを要求されている。しかし、我々(翻訳者・翻訳会社)にも原因があるのではないか

  1. 翻訳者が、安いと思いながらも仕事を請けているのではないか?
    • 断ったら仕事が来なくなってしまうのではないか…
    • 開き直って、安くてもいいから、どんどんこなしていく…というタイプ
    • 専業と兼業が混在した市場。専業・兼業で稼ぎに対するインセンティヴが違うのではないか?…。価格より翻訳をしている事に価値を見出している方もいる。
  2. 翻訳者が想定している年収水準が低いのではないか?
    • 翻訳者の最低年収は幾ら…という業界認識がないように思う。
    • 自由である(という一般的誤解がある…だから、高い収入であろうという認識に繋がらない)
    • どんな人間でも「翻訳者」という看板を挙げて仕事をできる。(国家資格がある訳でもない)

他の業種の年収は?(士業)…賃金構造基本統計調査(厚生労働省)平成17年~23年の7年間の平均

  • 税理士・公認会計士:813万
  • 弁護士:1,019万
  • 医師:1,124万
  • 大学講師:740万

翻訳と言う仕事は、士業に匹敵するとの考えでの比較。以下は一般的仕事。翻訳者に女性が多いことを考慮して他業種の年収を調査:
(Web情報&求人誌)

  • 外資系医薬品会社 35歳 女性:550万
  • 外資系商社 秘書 33歳 女性:600万
  • 一般事務職 30代 女性:300万~400万
  • アルバイト:(時給)コンビニ 900円~1,200円(夜勤:1,200円~) → 年収:190万~250万*
  • アルバイト:(時給)ハンバーガー店 950円~ → 年収:200万*
  • スーパーレジ:(時給) 950円~ → 年収:200万*
  • 派遣社員(事務職)@関東地方:(時給)1,550円 → 年収:327万

*翻訳者は1日8時間、月22日働く前提で計算

これらの仕事と比較して、翻訳者の年収は妥当なのか?

現状に対する対策

  1. 収入に対する認識を変えて欲しい。
    • 翻訳者となるために投入した努力、リソース等を考え、他業種と比較して収入は妥当なのか?
    • 中心が700万~800万くらいである…という認識
  2. 専門性を高める。翻訳の品質を高める。→価値をあげる。
    • その上で、納得できないレートの仕事は断る。
  3. 自分を正しく評価してくれる顧客、翻訳会社を探す。
    • 品質を業界トップクラスにするという気持ちを持つ。
    • 自分の翻訳品質を「中」「下」と評価した人は、何故、そう思うか即答できるか?
      • 出来なければ、それは品質について真剣に考えていないということ。
      • 分かっているのであれば、それを補強する為に具体的に何をしているかを説明できるか?
      • 出来なければ、やはり品質をまじめに考えていないということ。
    • 自分のものを「最高品質です」と言って売るには、相当の自信がないとできない。
    • この先、「低価格の薄利多売」か「高単価の高付加価値製品」かの二つの道があるが、我々は後者を目指そうとしている…だからこそ、「品質」が大切。
    • 「翻訳」とは何か?という定義が自身の中で出来ているか?→定義を持つべきである。
      • その定義にそぐわない仕事はしない。
        • 低レートだからと言って、その定義を逸脱はできない。ならば、断るべき。
    • 「品質」を上げるヒント
      • 必ずできること(言い訳できないミスを撲滅する)
        • 訳抜けがないこと
        • 数値・記号の整合を確認する。
        • スペルチェック
      • 時間が掛かるがやれば出来ること(中・下の人はここで手抜きをする)
        • 訳文の表現が通じること
          • 専門用語、文法、コロケーション…
      • 長い時間を要すること
        • 原文の理解と、英文の書き方
  4. 営業活動
    • 人付き合いの向き不向き、好き嫌いに関係なく、色々なセミナー等に出席し、同業者達と話をしなさい。それが自分の仕事に必ず役に立ってくる。
    • プライドを捨てて営業する。相手の方が偉いのだから、相当酷い事を言われることを覚悟する。あとは地道な努力をする。
    • すぐに仕事につながると思わない。営業して必ず仕事になると考えてはいけない。10件当たって1件、話を聞いてくる。10件聞いてくれた中で1件仕事になる…それくらいに考えていないと、おかしくなる


IJET23「翻訳の品質管理」セッションに出ます

3月に当ブログでもお知らせをさせて頂きました「第23回日英・英日翻訳国際会議(ijet-23)」が、いよいよ二週間後に迫ってきました。

私は「翻訳の品質管理」と言うパネルディスカッションに、パネリストとして出席させて頂きます。

どの様な話題で話が展開していくか、また、モデレータの牧野氏がどう誘導されるのか、今からドキドキしています。

私個人的には、パネルディスカッションと言うセッションですので、聴講される皆さんとの情報交換、意見交換を大切にしたいと思います。

パネリストは、あくまでもそれぞれの立場の代表として前に立ちますが、それぞれの考えに正解がある訳ではありません。我々パネリストの発言に対してどう考えるのか?どう感じるのか?…そんな意見を会場に一緒にいる方々からも頂いて、その場にいる人達で共有し、そこから一歩前に進める議論がされ、その後の仕事の中で生かしていける…そんなセッションになるといいなぁ…と思っています。

この二週間は、自分の脳内で「翻訳の品質」について、おさらいしておこう思います。


JTF:日本翻訳ジャーナル #usterry

本年度初号の日本翻訳ジャーナル5月6月号が公開されています。

今年度から、JTF会員でなくても、誰でも無償でダウンロードして閲覧できるようになっています。
下のリンクからJTFのホームページに行き、ダウンロードして下さい。

日本翻訳ジャーナル

今年度、私は編集委員としてコーナーの1つを企画させて戴いています。このブログを「裏通り」とした背景から、業界紙という表舞台の活動になりますので、「翻訳横丁の表通り」というコーナー名に致しました。

私のコーナーでは、「Twitter/SNS 等のネットワークと翻訳者」「翻訳者と翻訳会社の関係」 という 2 つのテーマを取り扱っていきます。

今回号は、13日(日)に一緒にUstream放送をする @transcreative こと清水さんに寄稿頂いています。Ustream放送の内容にも被るところがあると思いますので、是非、アクセスしてご覧頂ければと思います。また、お知り合いに、日本翻訳ジャーナルをお知らせ頂けるとありがたく思います。