以前から「社内翻訳者」を話題にするたびに、10年以上も前の私の経験から「社内翻訳では、翻訳物にチェックが入らないところが殆どであり、社内翻訳では翻訳力はつかない」とか「社内翻訳の経験は額面半分でしか受け取っていない」といった発言を繰り返ししているのですが、実際のところ、最近は状況も変わってきているのでは?、これは間違った発言なのでは?と心配していました。
最近、社内翻訳者の方々ともネットワークで繋がり、機会あるたびに「社内で翻訳したもののチェックは誰がやってるの?」という質問をしていますが、聞こえてくる回答は私が10年前に経験したものと余り変わりません。
「誰もチェックしていない」
「技術者がチェックしている(が技術的確認をしているだけ)」
こんな答えばかりです。稀に「ネイティブチェッカーがいてチェックしている」という話しが聞ける程度。
やはり、現在でも「社内翻訳された文書は内部チェックされずに最終読者に渡っている」と言う状況に変わりはないようです。
社内で流通させるだけの文書であれば、その質で許されるのだと思います。英語のできる人が訳を付けていればいい、英語になっていれば良い、という程度の取扱いでも良いのだと思います。
ところが、そういう前提は得てして一人歩きして、時と場合によっては無視され、前提にそぐわない対外文書の翻訳に使われたり、社外の人間の目に触れる文書に使われるケースもあるようです。
以前、こんな事がありました。ある企業の英語のホームページを見ていたら、スペルミスや文法間違いを発見。色々話を聞いてみると、英訳を社内翻訳者にさせたとのこと。その感覚と言うか、意識に愕然としたのを覚えています。
社内に翻訳者を抱えていれば外注する翻訳はない…と言う認識は、社内に潤沢に色々な分野を扱える翻訳者を抱えていない限り、間違いです。
社内翻訳者を抱える企業は、以下の認識を持って欲しいと思います。
・社内翻訳されたもののチェック機能を必ず持たせる。
訳しっ放しで完結している職場では、翻訳の質は上がらないです。また、そういう質の訳文が社員の目に常に触れる事は、会社全体の言語意識を低下させる事にも繋がります。
チェックがある事で相互刺激となり、質が高くなって行く可能性が生まれます。翻訳者とチェッカーはセットで考えるべきだと思います。
・社内翻訳で対応できない文書もある。
・特に社外向け文書には注意が必要。
翻訳者は、どんな文書でも翻訳できると勘違いしていませんか?
一つの例として、貴方は一人で、仕様書、契約書、ニュース記事、マニュアル、プレスリリースを日本語で書けますか?
無理ですよね?…それと同じです。
翻訳も、それらの専門知識を持った翻訳者だから、翻訳が出来るのです。
「翻訳者はなんでも訳せる」と言う幻想は捨て去って下さい。
今いる社内翻訳者が対応できる文書種類と分野をハッキリ理解して、それ以外のものは外注する必要があると理解して欲しいと思います。