翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.

JTFセミナー「文芸翻訳の作法」宮脇孝雄先生

IMG_6509

2月12日に開催された日本翻訳連盟の第5回翻訳セミナーに行ってきました。

今回は、翻訳家 宮脇孝雄先生の「文芸翻訳の作法 ~先達の訳を参考にしながら~」です。仕事が詰まり気味で直前まで参加を悩んでいたのですが、この機会を逃したら次回いつ宮脇先生の話を聴けるか分からないと思い、無理矢理参加してきました。

これらはセミナー資料に紹介されていたもの。青空文庫で読めますので、リンクからお読みください。

以下に、私が興味を感じたり、自分の仕事に影響すると思ったものをメモにしたものです。そのまま羅列します(いつもの手抜きスタイル(笑))

  • 翻訳は頭脳労働であり、肉体労働である。
  • 翻訳は頭だけではなく、身体で覚えなくてならない。
  • 翻訳は、頭で考え込んでしまうようではダメ。
  • 文芸翻訳では英英辞書を引く。
  • 文芸翻訳は、上から訳していく。
  • if や but などは接続詞のような感じで訳していく。「ただし」で繋げたりする。
  • 一度間違って解釈すると、その後の文章を読んでも、他の解釈を受け付けなくなる。だから注意が必要。
    これは例文を示してお話をされたが、先の解釈を間違ったまま続く文章も解釈し、訳文が不自然であるにも関わらず、その解釈を疑えず、そのままにしてしまっていた。こういう翻訳は実務翻訳でも良く見かけます。読み返しても、既に脳内にフィルターが掛かっていて検出できないのかもしれませんね。注意が必要なポイントだと思いました。
  • 本を読みまくった先に、翻訳をする。つまり、本を多く読み、文の流れやリズム、文調が身体に染み付いた人が翻訳をする。
  • 英語の解釈ばかりを考えていると、小説的でない表現になってしまう。
    ここまで高度な話でなくても、英語の解釈で精いっぱいで日本語になっていないという訳文は時々見かけます。
  • 身体で翻訳をできるようになること。自転車が乗れるようになる…ということと同じ。
  • リズムが原著から変わらないように訳す。英語の並び通りに訳す。(まとめて後ろに付けるなど、やってはならない)
  • Adam Smith の「富国論」は、英文で読むと面白い (An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations (English Edition) – Adam Smith)
  • 「内容」と「形式」を別々に考える悪習がある。
    「富国論」は英文と和訳本で形式が変わってしまった例として紹介。
  • 文芸翻訳は、どれだけの読書量を持っているかで決まってくる。
  • ジャンルは絞った方が良い。
  • 最低、読んでおかないとならない物がジャンル毎に1~200冊はある。それらを読んでから(翻訳を)始める。
  • これはできる!というジャンルを持っていないと、長続きしない。
    これは実務翻訳でも言える事。

とにかく、「本を読みなさい」と繰り返しお話され、セミナー最後も「本を読みましょう」という言葉で締めくくられました。質問者への回答の中で、本を多読するコツのようなものをご自身の経験からお話されました。昔は本屋の前に1冊100円程度の本がワゴンに積み上げられて安売りされていたが、それをまとめて10冊ほど購入。そして片っ端から読む。面白くないと思ったらやめて次の本を読む。1冊たかだか100円なので捨てても惜しくない。そして10冊に1冊くらい興味を持って最後まで読み切れるものがある。

やはり、本好きは翻訳者にとって大切な特性だなと再認識。そして、積読ばかりしてないでどんどん読まなくてはという気持ちを新たにしました。私自身がどれほど正しく理解できているかは不明ですが、お話されている内容は全てうなずける事ばかり。良い刺激をいただきました。

そもそも、「なんで文芸翻訳のセミナーを?」「分野が違うんじゃない?」なんて声が聞こえてきそうですが、文芸翻訳系のお話は、翻訳の本質を学ぶ場としてとても貴重な機会だと考えているので、何度かに一度の割合で頭に入力するように努めているのです。もし、翻訳を勉強されている方、翻訳の仕事をされている方で「文芸は分野が違うからなぁ」なんて、分野違いを理由で聴講されていないのであれば、それは視野を狭くする原因になると思うので、一度、聴講してみて欲しいですね。映像翻訳やゲーム翻訳など、分野にこだわらず話を聴くのは大切だと思います。翻訳する上で苦労している事、考慮している事、その技、どれをとっても自分の翻訳に生かせる話ばかり。話を聴く中で、心が震えるような感動をしたり、自分の不甲斐なさに打ちのめされたり、そんな瞬間を持てる事がとてもありがたいし楽しいです。翻訳の知識に関しては「雑食」くらいがちょうど良いと私は思います。

作成者: Terry Saito

二足の草鞋を履く実務翻訳者です。某社で翻訳コーディネーター、社内翻訳者をやっていました。 詳細は、以下のURLよりどうぞ。 https://terrysaito.com/about/

コメントは受け付けていません。