翻訳横丁の裏路地

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翻訳とボリュームディスカウント

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以前から「翻訳にボリュームディスカウントはない」と言い続けているのですが、「さて?ボリュームディスカウントの考え方って何?」というところになると、脳内で曖昧な考えしか出てきませんでした。

そもそもボリュームディスカウントって?

普通の(?)日本語にすると「まとめ買い割引」とでも言うのでしょうか。大量に商品を購入(発注)することにより得られる値引きのことです。ただ、それってどういうカラクリで成り立っているのでしょうか?どうして値引きに応じられるのでしょうか?その原資はどこからくるのでしょうか?

翻訳のボリュームディスカウントについて書かれた情報を探してみたのですが、ジェスコーポレーションの丸山社長が2007年に書かれたブログ記事「翻訳業界におけるボリュームディスカウント」程度しか見つけ出す事ができませんでした。これによると、在庫処分目的の値下げという観点もあるようです。

値引きに応じる以上、通常のプロセスを経た場合よりも利益幅が大きく、そのはみ出す利益の一部を還元することができる条件であるという事でしょう。例えば1000枚の案件を20回受注する場合と、20000枚の案件を1回受注する場合の差を考えると、その条件がはっきりするでしょう。

  1. 案件(発注)数に伴って増減するもの
  2. 分量によって増減するもの

翻訳受注に伴って発生する事務処理は、上記1に該当し、案件数に比例して負荷が増減するので、ボリュームディスカウントする上での原資になり得ます。上記の例で言えば、20分の1の手間になるので、19回分の作業費(作業時間)が「通常より多く得られる利益」という事になります。ただし、翻訳者が請けられる翻訳案件の規模の限度や、翻訳全体に占める事務処理に費やす時間は小さなものであるという事を考えると、値引きにつなげられるほど大きな金額にはならないでしょう。

「ちょっと待って!単価って翻訳に対するものでしょ?事務処理なんてお金貰ってないし」という声が聞こえてきそうです。それはちょっと視点が違うのです。クライアントやエージェントと翻訳者の間では、翻訳作業に対する報酬を、翻訳量と単価を乗じて支払がされていると思います。この報酬を翻訳者視点で考えれば、実際は、その分量の案件を受注するまでのやり取りや、受注してからの問い合わせや翻訳作業、チェック作業、納品して請求書を作成して送付するという一連の作業が全て、含まれていると考えるべきです。よく「時給換算して単価は考えるべきだ」といわれているのは、そういう理由です。(この辺りの話は別記事を書きたいと思います)

さて、一方で、分量によって増減するものとして、丸山社長はブログで「用語・表現の統一」を例としてあげられています。私も、それはあるかな?と感じるものの、正比例以上の増加があるのかが実感として良く分からないのが正直なところです。ただし、大型案件の複数翻訳者による翻訳を想定したエージェント視点の意見だとすれば、理解できます。値引原資を考える上で、分量増により通常より減少する負荷とは何があるでしょうか?、私には想像できなかったです。つまり、総合的に考えると、翻訳者によるボリュームディスカウントはできないというのが私の意見です(CAT使用などは、別の話)

ボリュームディスカウントを視点を変えて考えてみる

そもそもボリュームディスカウントという名が表す通り、「値引き」行為ですので、翻訳者の立場で考えると、下請法のいう「下請代金の減額」に当たらないのかが気になるところです。

公正取引協会のホームページに以下の記事を見つけました。 http://www.koutori-kyokai.or.jp/law/subcontract/subcontract-5.pdf

「ボリュームディスカウント等合理的理由に基づく払戻金」の項に以下のような記述があります。

具体的には発注数量の増加とそれによる単位コストの低減により、当該品目の取引において下請事業者の得られる利益が、割戻金を支払ってもなお従来よりも増加することを意味します。

つまり「割戻金を支払っても(ボリュームディスカウントによる値引きをしても)、従来よりも利益が増加する」という解釈のようです。

これから判断すると、翻訳でボリュームディスカウントが成立するケースは存在しないと思われますね。

もし、翻訳会社からボリュームディスカウントを持ち掛けられたら、上記のような情報をもとに、彼らが考える「合理的理由」の説明を求めるようにしましょう。

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作成者: Terry Saito

二足の草鞋を履く実務翻訳者です。某社で翻訳コーディネーター、社内翻訳者をやっていました。 詳細は、以下のURLよりどうぞ。 https://terrysaito.com/about/

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