以下の記事は、メルマガに投稿した記事ですが、翻訳祭後にカセツウ酒井さんが主催された「ふらっとカセツウ」でもお話しした内容なので、ブログ記事としてシェアしておきます。
私のセッションでも話題に挙がったキーワードが「機械翻訳」。最近、Twitterでも良く目にする話題ですが、ニューラル機械翻訳の登場で翻訳者の仕事がどんどん奪われていくという漠然とした不安を抱いている翻訳者も多いようです。やはり、やみくもに不安がらず「敵を知る」ことが大切だと思います。どういうアルゴリズムで出力文が生成されるのか、最低でもそれくらいは大まかでも理解しておいた方が良いと思います。
「AI」という言葉から、何か人間のように学習して知恵を付ける得体の知れないものという印象を持ってしまいがち。いまの機械翻訳は決して文法を理解し、言葉を理解して出力しているものではなく、文章を解析して膨大なコーパスデータから類似した文章をデータとして抽出して足したり引いたりして出力しているので、その質向上には限界があるのです。「知っておきたい翻訳史―江戸時代から今日まで」で講演された翻訳者の高橋さきのさんが機械翻訳を「翻訳シミュレーション」という言葉で表現されていましたが、そういう印象で捉えるのが分かり易いと思います。(実際はシミュレーションさえできていないですが)
とはいうものの、NMTの登場で出力文の質が飛躍的に向上し、その質はさらに向上し続けており、定型文や繰り返し文など機械翻訳が得意な分野の翻訳では、人間翻訳が必要なくなりつつあるのも事実です。
では、機械翻訳にできず、我々人間にしかできないことはなんでしょうか。
それは難解な文章の読解や原文の(論理的)間違いの認識だと思います。ちょうど「ITツールを活用した翻訳者による米国特許翻訳の高品質化」で登壇された久保田真司さんも講演の中で言及されていましたね。つまり、専門的知識や経験がないと原稿のコンテキストを正しく解釈できないとか、原文の間違いにより事故に繋がる(例えば人の命に関わる)ような文書分野や技術分野に、我々翻訳者が生き残る道があるのだと思います。
さて、この記事では「あえて」翻訳祭の講演を引用しながら書いてみました。それは、雑多な講演を聞くことで、いろいろなヒントを得ることができるということをお伝えしたかったからです。私は特許翻訳をやりませんが久保田さんの講演を聞いて、いろいろとヒントをいただきました。許される時間次第ですが、ときにはさまざまなセミナーを聞いてみるのも、自分の認識を一段アップさせる機会につながりますので、是非、雑食を試してみてください。
メルマガ「てりふり通信」 https://terrysaito.com/mailmagazine/