誰でも「標準リードタイム」を、自分の翻訳速度や納品までに実施する工程数と必要時間から判断し、決めていると思います。
それを割り込むような納期を要求された案件を、短納期案件と言うわけですが、さて、そんな時、どんな対応をされるでしょうか?
翻訳会社の場合は、案件打診から納品・検収までに関わる工程数が多いので、リードタイム圧縮が比較的行い易いという印象があります。しかし、そういう余裕白は改善白でもあり、普通の企業であれば既に改善されていて、可能な限りのリードタイム圧縮がされています。その状況の中、クライアントから自分達の「標準リードタイム」では達成できない短納期を要求された場合、何をするでしょうか?
物事をシンプルにするために細かな実際は無視して、大雑把な話をすれば、「品質を犠牲にする」のです。具体的には、品質保証の難しい「並列翻訳」や品質保証放棄の「工程スキップ」しか逃げる方法はないでしょう。
並列翻訳とは、作業を複数名で分担する事です。つまり複数名で翻訳や関連作業をするわけです。原稿文書の分野・種類によっては、周到な事前準備を行った上に実施すれば、品質のバラツキを顧客が認識できない程度に抑えることが可能なので、まだ許せる対応です。ただ、前述の通り、分野・文書種類限定、かつ十分な事前準備が大前提です。それを無視して実施した場合、全て品質の劣化という形で跳ね返ってきます。
一方、ありがちで安易な方法が「工程スキップ」です。言葉を変えれば「手抜き」です。その矛先になるのは常に「検査」です。商品を形作る作業(この場合、翻訳)は無くせませんが、検査は商品の外観に影響を与えず、顧客に手抜きを認識されづらいからです。極端な方法は、翻訳者から納品された翻訳物をそのままクライアントに納品するのが最短納期です。
良識のある、また品質保証の考え方がちゃんとした会社なら、工程スキップしても品質が担保できる裏付けがない限り、こんな事はしないはずです。
では、翻訳者に「標準リードタイム」を割るような仕事の依頼がきたらどうでしょうか?
できることは「徹夜作業」か「工程スキップ」くらいではないかと思います。前者は集中力を落としてミスを誘発し、後者は品質保証を放棄する。どちらにしても、品質が犠牲になります。
そもそも、標準リードタイムに加味されている余裕率を超過するような納期は、質を落とさない限り、実施不可能な筈なのです。必要不可欠な工程と時間を積み上げ、リスクを見越した余裕率を加えたものが標準リードタイムのはずだからです。それを割り込む短納期で同じ保証ができるなら、最初からやってるはずです。
つまり、自分都合な短納期の押し付けは、支払うお金の価値に見合わない質の翻訳を購入する事になる。この事は、翻訳を購入するクライアントや翻訳会社は、しっかりと認識すべきです。(一番理解してるはずの翻訳会社が、翻訳者に対してこれをやってたら、本当に愚かです。)