日本人なら誰でも名前を知っているであろう某企業で社内翻訳に携わっている方から、メールで質問をいただきました。返信した内容を、少し形を変えてブログ記事にしておきます。
以前、私のブログ記事の中でも「企業内方言」という表現を使って書いたことがありますが、企業には、その企業の中でしか通用しない言葉というものが少なからず存在しています。辞書にない言葉であったり、辞書にあるけれど語義が違って使われていたり、なにかと社内で翻訳する人間の頭を悩ます言葉たちです。
そういった社内でしか通用しない用語を、用語集管理の中でどう取り扱うべきかというのが、質問でした。
この問いに答える前に、まず、用語集をどう定義するかが大切かと思います。私の中では次のように定義しています。
用語集:
翻訳文書の最終読者が読んだときに、何を指しているのかを容易かつ正確にイメージできる用語を登録・管理するもの。また、翻訳作業の中で適用するもの。
したがって、翻訳された文書が、どういう用途で使用されるのか、誰が最終読者なのかにより、登録すべき用語も変わってくるのだと思います。「企業内方言」も企業内の人間が最終読者になることが想定されるのであれば、用語集で管理すべき用語になるのでしょう。
手段として、用途/目的によって複数の用語集で管理するのが理想的だと思うのですが、そうすると(経験的に見て)管理が煩雑になり、ムダな管理工数が発生してしまいます。そこで、登録される用語には、文書種類や分野などのフラグを付けるなどの細工をして、すべてをひとつの用語集で管理できるようにします。(フラグをキーにして分類すれば、目的専用の用語集ができる)
用語集で取り扱う具体的な分類と用語は、以下のようになるでしょうか。
用語大分類
1) 社内向け文書のみに使用するもの
用語と語義が辞書にない、もしくは語義が辞書と違うもの。企業内方言。企業内名詞、企業内表現など
a) 一般用語・表現 → 社内用語・表現
b) 社内用語・表現 → 社内用語・表現
2) 対外向け文書に使用するもの
c) 社内用語・表現 → 一般用語・表現
d) 一般用語・表現 → 一般用語・表現
用語中分類
- 業務分野/技術分野
- 文書種類
用語集に定義する用語
- 固有名詞のみ
- 慣用句
※同じ分野や文書種類で、文脈により用語選択が変化するものは登録しない
ここまでは、社内用語を許容するという前提で書きましたが、はたして、それで良いのかという話が必ず出てきます。社内の人間が社外の人間と会話する中で、社内用語をうっかり使うことでミスコミュニケーションが発生する可能性がありますし、言葉によっては、企業人として恥ずかしい場面に遭遇するかもしれません。
ここは企業としての方針が必要な部分だと思いますが、社内用語は世間で通用する言葉に是正するという方針であれば、上記のa), b)は管理不要となりますね。
社内用語は、結構取扱いが厄介なものです。外に目を向けない社内翻訳部門が、一般的には多いのではないかと推測しますが、そういう部門が外部翻訳会社へ翻訳依頼し、納品された翻訳文を見て「なんで、こんな用語を使っている?」とクレームをつけてしまう。社内でしか通用しない用語だという認識を持っていないことが原因です。社内翻訳部門は、少なくとも社内用語であるかないかの認識を持ち、上述した大分類にあるような分類をして、用語管理した方が良いでしょう。