翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


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誰の言葉?

以前、同僚達に、機械翻訳や翻訳支援ツールを使用する上でのリスクを説明するのに、以下の話を引用して説明したことがあります。

  • 佐々木希「夜道で襲われて抵抗したんだけど死んじゃったらどうしようかと思った」
  • 吉田沙保里「夜道で襲われて抵抗したんだけど死んじゃったらどうしようかと思った」

引用元は「Pumpkin-NEWS」の2015年1月23日の記事。元ネタは2chらしい。

記事の中では、話される言葉はまったく同じなのに、話者が変わることで読者の捉える意味が変わることを面白おかしく話題にされています。

この比較は、とても面白いと思いました。読者の持つ話者に関する情報により、言葉の解釈が変化している。これは翻訳でいつも注意しているポイントのひとつですよね。作者意図、背景情報、前後関係、想定読者などを考えながら原文を読み解き、訳文に落とし込む。上記の引用文を仮に翻訳した場合、コンテキストを失うことなく、まったく同じ訳文にできるでしょうか?(記事の面白味を残す云々はこの場合無視)。異文化異言語の読者が、話者の背景情報を持っているとは想定できませんから、そこに何かの手当てをする必要があるでしょう。

もしも、この引用文を翻訳支援ツールに入れた場合、どうなるでしょう?当然、ふたつの文は100%マッチになるでしょうから、翻訳メモリーに登録した訳が単純に、このふたりの言葉として適用されるのでしょう。そして、もし過去訳とマッチしてしまった上に「100%マッチは触らないでください」という翻訳会社の指示があれば、その訳が原文のコンテキストを失ったそのままの状態で放置されることになりますね。

この例を学びとして捉え、改めて心に決めたことは以下の通り。

  • 翻訳支援ツールを使う翻訳対象は、分野、文書種類などを含め、慎重に検討すること。(無闇に使用を判断してはならない)
  • 顧客が指示しない限り、マッチ率に関係なく、コンテキストが保てないものは修正翻訳必須とし、その対価を支払うこと。(「100%マッチには手を付けるな」といった誤った指示をしないこと)

問題は、翻訳会社が翻訳支援ツールを支援ツールではなく、翻訳ツールと間違って理解し、使っていることではないでしょうか?翻訳支援ツールは、翻訳を「支援」するツールであって、翻訳者の意思を無視して、訳文を勝手に確定するような使い方は明らかに行き過ぎだと思います。


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大阪でもWildLightセミナー

二年振りに大阪へ行きます。ほんまかい(大阪)主催の勉強会でWildLightセミナーをさせていただきます。

日時:5月14日(土)13:00-17:00
場所:神戸大学学友会大阪クラブ@大阪梅田駅前第1ビル11階

タイトル:「翻訳チェックとWildLight活用」(仮称)

詳細と申し込みは、ほんまかいホームページへ。


 

【セミナー概要】
個人翻訳者が翻訳完成物を納品する前に実施すべき品質チェック項目とチェックフローを、翻訳コーディネータの立場から提案し、実際にテリーが実施している翻訳チェックフローを例として取り上げ、そのフローになった理由や皆さんがフロー構築する上で考慮すべきことを説明します。また、それらのチェックでどのようにWildLightを活用しているかをデモで紹介いたします。

関西地区で個人を対象としたWildLightセミナーは、多分、初めてだと思います。興味のある方は、是非、この機会に参加をご検討ください。


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JTF会員になりました。

なんだかんだと言い訳をして会員にならないまま、既に4年も日本翻訳連盟(JTF)のジャーナル委員をやっているという事実を先日再認識し、加えて、2010年に入会した日本翻訳者協会(JAT)には、IJET23絡みで協力して以来、特に何をしているわけでもないのに会員であり続けている事のギャップに、何だかとても違和感を持ったので、金銭的リソースの配分を見直して日本翻訳連盟の会員になりました。

今年度も継続して、時間的・経済的リソースをJTFジャーナル委員として投入するつもりなのですから、あらゆる意味で軸足をJTFに置くべきだと判断するに至りました。

以前は会員になるメリットが云々とあれこれ言っていたけれども、JTFサイトの会員ページを眺めながら思ったのは、少し認識不足だったかもしれないということ。比較すべき土俵が間違っていたかもしれないということ。今後、そういうことを意識しながら中身を見ていこうと思います。

会員になって、2013年度の翻訳白書を頂けたのは、少し嬉しい。既に1冊持っているけれど、職場に置いておきたいと思っていたので、助かります。あとは、バッカイさんとさきのさんのDVDが発売になったら、クーポン券を使って買うつもり。(DVD版購入ページ)


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翻訳屋と寿司屋

25年ほど前、当時、たまに利用していた寿司屋で、久し振りの贅沢にとカウンターに座り、寿司を食べていた。

馴染みの客らしいおっさんと「シャコなんざ、ゴミみたいなもので、ここらじゃ食べないよ」なんて、少々気に障ることを言われつつ雑談をしていたら、若い女性客が入ってきた。

お持ち帰りで寿司を二人前注文して、彼女は少し高くなった座敷席の端に腰掛け、寿司ができあがるのを待っていた。当時はまだ回転寿司がそれほど普及しておらず、近所にはなかったと記憶しているので、寿司というとこうして寿司屋に買いに行くか出前を取るくらいしかなかった。

しばらくして、出来上がった寿司折りふたつを持って、店主が彼女の元へ、そして、値段を告げた途端、彼女の表情が曇る。

「思ってたより遥かに高い」

そう思ったのだろう。顔にそう書いてあった。かなりしぶしぶとした感じでお金を払い、その女性は店を出て行った。そして店主がぼそりと言う。

「あれでもかなり値引きしたんだけどねぇ」

そう、店主は彼女が来店した瞬間から、きっと寿司屋の寿司の値段を知らないで来ていると判断していた様子。なんともやりきれないという感じの店主を見て、気の毒に思ったのを覚えている。

私が翻訳を「売る」立場になってから、この記憶を時々思い出すことがある。

初めて海外と取引をするようになり、文書の翻訳が必要になったとか、海外からお客さんが来るので、掲示物を翻訳したいとか、いろいろな理由から初めて翻訳サービスを利用する顧客にも、同様の反応が見られるからだ。

世間的な翻訳に対する印象は、言語に精通した人間なら「ちゃちゃっと」できるくらいの印象で、そんなに費用と日数が掛かるものとは思っていないのが実状なのだろう。

見積を出すと音信不通になる顧客はきっと、他の安価な翻訳サービスを探し、そこに仕事を依頼するのだろう。これは決して間違ったことではない。顧客のニーズとマッチしたサービスなのだから当然の選択だと思う。

私が思うのは「果たして私(たち)は、回転寿司と明確に差別化できる翻訳サービスを提供できているだろうか?」ということ。もし仮にそういった回転寿司サービスが、ある程度「高い翻訳品質」を提供できるようになっても、「勝負できる『何か』を持っているだろうか?」ということ。

機械翻訳にせよ、ウェブ翻訳にせよ、この先の将来において、どう技術的に進歩し、変化する顧客のニーズを獲得して市場を独占していくかは、生理的好き嫌いに終始することなく真面目に捉え、この先の自分の身の置き場所を考えることは大切だなと常々感じている。


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JTF翻訳ジャーナル No.282 / 2016年 3月/4月号公開


JTFジャーナルWeb

日本翻訳連盟の「JTFジャーナル」 3/4月号が公開されました。

今号の特集記事「機械翻訳の国家戦略」は、なかなか読み応えがあります。また、ミニアンケートの結果も現状を知るのに役立つでしょう。

高橋聡さんのコーナー「フリースタイル、翻訳ライフ」では、我ら翻訳勉強会「十人十色」の井口富美子さんが寄稿されています。

無料でお読みいただけますので、どうぞ、お気軽にダウンロードしてお読みください。