翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.


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CATに飛びつかない

「飛びつくのは猫の方だろう?」と、タイトルを読んで突っ込んでくれた方、ありがとう(笑)

昨日書いたブログ記事をプレビューしていたら、関連記事で以下のようなものが出てきた。

100%マッチはマッチしていない

これは2011年に書いた記事で、確か顧客に迫られてTradosを導入し、半年ほど経った頃に書いた記事だと思う。既にこういう認識を持っていたんだと自分なりに感心する。

実は先日、ある翻訳者の集まりに参加しました。訳文の質が良いと評価の高いある翻訳者さんと立ち話をしたのですが、翻訳品質を高めるために並々ならぬ努力をされていました。すべて手作業でされていることから、効率をあげるのにツール使用が必要かもしれないと考えているようで、そこに翻訳支援ツールの話が登場。私は、せっかくそこまで高めた翻訳品質と意識を、ツールで壊して欲しくないと思ったので、CAT使用による翻訳品質へ及ぼす影響をあれこれとお話ししました。(この方の場合、WildLightのようなツールで十分効率化が図れます。)

そこで1つ気になったことは、ツールと聞くと、一足飛びに「翻訳支援ツール(CAT)」まで考えてしまうことです。もっとも、いろいろと存在するツールの目的や機能を把握しないで考えていることなので、仕方の無いことですよね。でも、同じようにいきなりCATに言及する翻訳者さんを見てきているので、ツールに関して何も知らない方は、いきなりCATに飛びついてしまう危険性があるなと感じました。

先日の福岡翻訳勉強会小林晋也さんが話されたような内容を、初学者や初心者を含め、ツールを知らない翻訳者の方の耳に入れる必要があると強く感じました。どういうツールがあり、どういう機能を持っており、どういう目的で使用できるのか、そしてそれらを使用する上でのメリットとデメリット。小林さんのセミナーの良いところは、デメリットの説明が単なるQCDの世界で完結しておらず、翻訳者としての能力や将来への影響にも踏み込んでいる点です。

ツールが何物かをまだ理解されていない方は、是非、小林さんのセミナーを受けていただきたいと考えるのと、いきなり浅い知識でCATに飛びつかず、周りにいる翻訳者仲間の話や各ツールのホームページなどを読んで知識を深めて、ツール選びから慎重に行って欲しいなぁと思います。

 


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マッチ率による価格は破綻

最近ときどき耳にするのは、本来、翻訳支援ツール(CAT)の使用が許容できると言われているマニュアルなどの文書種類を逸脱して、プレゼン資料やコピーライティングといった、同じ原文でも表現の仕方により訳文の幅が大きく違ってくる文書種類にまで、CAT適用を要求してくる翻訳会社やクライアントが増えてきているらしい。(翻訳支援ツールの誤使用)

これは、CAT使用が可能だと判断する立場である翻訳会社の翻訳的無知が原因ですが、中の人間の入れ替わりとともに、本来の考え方が忘れ去られているのだと思います。

マッチ率とレートには前提となる文書種類があるはず

私は以前から疑問に思っているのは、「訳文の再利用」という考えがあるからこそのマッチ率による価格設定だと思うのですが、「果たして本当に再利用できているのか?」ということ。商品名称や部品名称といった固有名詞が違うだけであれば、概ね、その単語を置き換え、必要に応じて冠詞と単複を合わせ込めばオリジナルの訳文を「再利用」できる(のか?ほんとに?)のでしょうが、それを超えると「再利用」ではなく「再翻訳」に等しいのではないか?と感じています。もちろん、マッチ率はそういったものの登場頻度を鑑み、平均化された数値だと想像していますが、その平均値の前提となるのが適用する原稿の文書種類だと考えるわけです。

つまり、マッチ率による価格設定自体も、適用する文書種類によって違ったものが設定されていて然るべきで、前述のプレゼン資料などのケースなら、「マッチ率は何%だろうが100%の支払い」という価格設定をせざるを得ないでしょう。

無管理TM故にマッチ率は破綻。再利用可能率で考えるべき?

どうも、言葉に惑わされている気がします。「マッチ率」は「再利用可能率」と頭の中で置き換えて考えた方が良いのかもしれません。マッチ率というとTMと原文のデータ的に合致した割合を意味しますが、再利用可能率として考えると、合致したTMの訳文が再利用可能かどうかの率ですから、全く意味が変わってきます。そもそもTMの訳文が100%マッチしようとも再利用できるかどうかは不明です。ましてや、TMの管理がされていなければ、訳文が再利用できる可能性はかなり低いだろうと思うのです。(これ、クラウド系CATだと野生の王国なんぢゃ!?)

翻訳会社自身がマッチ率によるレートを破綻させている

翻訳会社がCAT使用の前提条件を忘れ、あらゆる文書種類へ適用することを始めた時点で、マッチ率レートがひとつでは破綻する状況を作り出しています。今後、マッチ率レートはひとつではないという認識に切り換えて、翻訳者さんは交渉してみるのも良いと思います。

プレゼン資料のCAT使用案件がきたら、「このマッチ率レートは、どういう文書種類を対象としていますか?」と聞いてみると面白いかもしれませんね。「統一レートです」と言われたら、「それ、おかしいでしょう?」という話になる。私だったら、マッチ率関係なく翻訳料は100%お支払いするね。過去訳の再利用など全く目的とせず、訳後のレイアウト調整を簡略化するとか用語集適用という利を取る意味でのCAT使用になるだろう。