昨年の翻訳祭、および一昨日開催された第1回JTF翻訳品質セミナーで配布した資料「翻訳者の翻訳品質保証マトリックス」ですが、当ブログで少し補足説明をしておきます。
翻訳会社でやっているであろう「翻訳品質保証計画」や「翻訳品質保証体系」の作成、および「翻訳品質保証工程」の設定で必要となる品質管理項目(品質保証項目)を抽出するために、私は「翻訳品質保証マトリックス」をひとつのツールとして使っています。マトリックスには、翻訳に関わるすべてのものを抽出し、それぞれをどう品質保証するかを定義して記入していきます。その際、項目抽出や保証条件定義のキーとして利用しているのが、5Mや5W2Hです。
翻訳フローの初めから終わりまで、例えば「問い合わせ」を受けてから「納品」「検収」に至るまでに関わるすべてものを、5M(Man, Machine, Material, Method, Measurement)の視点で抽出し、それらが翻訳品質に影響を与えるかの検討と、与える場合は、それらをどのように保証するかを5W2H(What, Who, Where, When, Why, How, How many)を使って定義します。マトリックスを埋めていくことで、翻訳品質へ影響を与えるすべての因子が明らかになり、それらを保証する方向性が見えてきます。
配布した資料は、翻訳者に限定して作成したものです。もちろん、完全な形ではありません。一般的な項目だけを記載したつもりです。理由は、取り扱う分野や文書種類、特有な仕事のプロセスなどによっても、マトリックスに記入する内容が変わってくるからです。したがって、皆さんの持つ条件に合わせて項目の追加削除を行ってください。
翻訳会社でこのマトリックスを作成する場合は、5Mの範囲をもっと拡げて考えてください。例えばManにあたる部分、つまり「人」に絡む部分は、品質保証項目が多数出てくるはずです。経営者、管理監督者、マネージャー、リーダー、翻訳者、チェッカー、DTPオペレーター、営業、経理など、企業運営に絡むすべての役務をキーに、翻訳品質に影響を与える因子を抽出することになります。そしてそれらを保証するための条件を定義します。
この作業によって、各々が担うべき品質保証項目が明確になり、それに伴って必要となる知識や能力が定義できます。このことは、従業員の教育システムがどうあるべきかも自ずと分かることになります。さらにいえば、翻訳を委託している翻訳者が担う品質範囲も明確になり、同時に翻訳会社が翻訳品質を担保する上で、本来なすべきことがハッキリと認識できるようになります。(翻訳者がマトリックスを作ると、翻訳会社のおかしな対応を認識できるようになります)
完成したマトリックスの使い方は、立場によりいろいろと考えられますが、今回、私がマトリックスを公開した意図は、定義した品質保証項目を、自分の翻訳プロセス(特に翻訳チェック)に漏れなく配置しているかを確認して貰おうと考えたからです。もし、「これ、やっていない」というものがあったら、自分の翻訳プロセス(や翻訳チェック)に盛り込むように検討してみてください。
翻訳会社の場合は、上述した「翻訳品質保証計画」や「翻訳品質保証体系」、「翻訳品質保証工程」の作成や定義に利用できるはずです。
マトリックスの作成作業は、とても時間の掛かるものですが、投資した時間に見合う効果があります。自分の翻訳物の品質に自信を持ち、相手を説得できる裏付けデータにもなります。
皆さんに活用いただけると嬉しいです。
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