翻訳横丁の裏路地

We can do anything we want to do if we stick to it long enough.

「翻訳品質評価方法に関する業界アンケート」を読む

日本翻訳連盟の標準スタイルガイド検討委員会にJTF翻訳品質評価ガイドライン検討部会というサブグループがあり、「翻訳品質評価方法に関する業界アンケート」を実施されました。その結果が日本翻訳連盟のホームページに公開されています。

2016JTF翻訳品質評価方法に関する業界アンケート結果報告書

ありがたいことに、無料で公開されていますので、是非、ダウンロードしてお読みいただきたいと思います。

ちなみに私もこっそり回答しています(別にこっそりで無くてもいい)。質問への回答方法は、概ね準備された回答からの選択式でした。早速ダウンロードして印刷をして、土曜の午後のまったりとした時間にキンキンに冷えたノンアルコールビールを飲みながら読ませていただきました。データを眺めているといろいろと面白いことが分かってきます。ここでは、私の勝手な解釈を書き連ねたいと思います(はい、私の個人的な見解です)

5.御社では「翻訳品質」とは何であるとしていますか。

この質問に対する回答を眺めていると、「納品物の完成度」が一番多いのですが、誰基準の完成度かは分かりません。他の回答を見ると「最終読者による評価の高さ」というものがあるものの、それを除外した回答から推測すると、回答者の意識の中ではほぼ「発注者に品質の主導権がある」という考えに基づいた回答に読めます。

6.訳文の品質評価をしていますか
7.質問6で「はい」の場合、何の目的でしていますか

訳文の品質評価をしていないのが10%あることに素直に驚きましたが、回答者の1/4であるクライアント企業の回答であろうと推測します。翻訳会社で訳文の品質評価をしないということはないと信じたい。(品質保証体系→品質保証工程がないということですから)

目的は、翻訳の各課程での品質評価のようです。「新規市場/顧客の開拓」については、私にはどう関連付くのかが良く分かりません。「品質評価しています」ということが宣伝文句として営業に有効であるということだろうかと想像しています(そういう営業トークには良く遭遇しました)。翻訳の工程評価のためという回答がないのは選択肢になかったからかもしれません。

8.どれくらいの頻度で品質評価をしていますか

この質問には、ハタと困りました。多分、「品質評価」の言葉の定義が質問者と回答者で違い、また個人個人によってバラバラなんだろうと思います。品質評価すべてをひっくるめるならば、「案件ごとに毎回」という回答ばかりになったのではないかと推測します。実際のところ、品質評価も対象により分類されており、それぞれがそれぞれの頻度で実施されているので、一概に答えづらいところもありますね。

9.どのような方法で翻訳の品質を評価していますか
11.質問9で「会社独自の手法」または「その他の手法」の場合、差し支えない範囲で内容を記入してください。

会社独自の手法」が圧倒的でしたね。「業界の手法」の認知度が低いのか、もしくは、それだけでは翻訳の品質評価を満足できないということだと思います。質問11の回答は、とても面白い内容になっています。手法としながらも手段が多いは、言葉の定義の違いが影響しているのでしょう。

回答内容を眺めていると、「翻訳」と「それに付随する作業」を「翻訳の品質評価の対象」として書かれているように思います。一般的に「翻訳の品質」とはそういう認識であるということだと思います。私は、そういう捉え方をしておらず、「翻訳」「それに付随する作業」という2つに切り分けて考えています。

16.訳文中の問題点(エラー)を分類して、項目ごとに評価をしていますか。
17.質問16で「はい」の場合、回答者が主に担当している分野では何を項目にしていますか。

質問17の回答は「その他」を除くと4項目です。スコアだけを見て判断すると「流暢さ」は一番優先順位が低いということになります。この結果は「あぁ、やっぱりね」という感じです。誤訳無く意味正しく反映されている「正確さ」、そして用語集やスタイルガイドの適用具合が重要視されているということだと思います。この事は、質問18の「どの項目をどの程度重視していますか」の回答でも現れていますね。(5:最も重要〜1:重要ではない)

流暢さ:3〜4
正確さ:5
用語集:5
スタイルガイド:4〜5

この辺り、回答者の翻訳分野が影響しているのではないかと推測いたします。

23.現在の品質評価方法を改善する必要性を感じていますか。
24.品質評価方法を部分的または全面的に改善したい場合、どのように改善したいと思っていますか。

部分的にせよ全面的にせよ、改善したいと考えているのは90%。現状の方法では不十分であるという認識の表れだと思います。「新しい品質評価方法を導入したい」「…十分に機能しないので…」「評価方法がバラバラなので…」など、いろいろと悩みがあるようです。現状、決定打といわれる方法が業界になく、独自に検討しているのが実情だと思うので、新しい方法があるならすがりたいというのが本心でしょうか。

25.クライアントと翻訳会社との間で、納品物の品質を巡るトラブルやクレームはありますか

この回答は「100回の納品で」何回程度トラブルやクレームがあるかという選択式のものでしたが、1%以上あるケースが6割も占めているのには驚きました(1回がどこに含まれるのかは不明だが(笑))。ましてや、6%以上が1割もある。私の感覚からするとこの6%のレベルは緊急事態です。会社を挙げて早急に何か対策を取らなくてはならないレベルに思います。

 

29.業界共通の品質評価ガイドラインがあると、翻訳会社とクライアント間で品質に関する合意形成に役立つと思いますか。

場合分けを含め、9割程度が役立つと考えておられます。

どのような内容で品質評価ガイドラインが表現されるかにもよりますが、私も業界共通の品質評価ガイドラインができるのなら、欲しいと考えています。

私は「翻訳」と「それに付随する作業」という切り分けで考えていると上述しましたが、この切り分けでの「翻訳」の部分にガイドラインが欲しいのです。後者の作業の部分は、単純で明確なので基準化しやすく、数値化して管理をすることも比較的容易です。翻訳業界の「業界の手法」といわれるものも適用できるでしょうし、それ以外の製造業で使われている品質評価手法も適用できそうです。
私が長年悩んでいるのは、前者の「翻訳」のガイドラインです。アンケートで「会社独自の手法」として回答されているものを見ても、この翻訳部分は「人依存」ですので、これを明確で数値化可能な評価基準と評価手法を業界標準としてガイドライン化できるなら、画期的なことだと思います。

そういう部分で、とても期待している活動です。

広告

作成者: Terry Saito

某社翻訳部門の中の人です。 詳細は、以下のURLよりどうぞ。 https://terrysaito.com/about/

コメントは受け付けていません。