翻訳横丁の裏路地

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JTF翻訳祭に登壇してきました(フォロー記事)

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2015年11月26日に開催されました日本翻訳連盟主催「翻訳祭」で、翻訳勉強会「十人十色」メンバーによるパネルディスカッション(トラック1セッション2)にパネリストとして登壇してまいりました。思い返せば、1年おきに登壇していることになります(2011年、2013年)。今年は、25周年ということで、あの有名な字幕翻訳者 戸田奈津子さんが登壇されました。これまた何の因果か、我々の裏で(どっちが裏かは不明(笑))講演されるということで、我々のセッションへの参加者数が危惧されましたが、ありがたいことに150名入る部屋がほぼ満席だったと思います。

第25回翻訳祭T1S2-当日

今年のパネルディスカッションは、昨年のパネルディスカッション「新米の上り坂、中堅の曲がり角」の続編という位置付けで、「曲がり角を抜けて、ベテランへ」というテーマで行いました。

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昨年と今年の大きな違いは、今回はエージェントの立場の人間(私)を交えたパネルディスカッションであるという点です。モデレータは昨年同様、帽子屋さんこと高橋 聡さん、パネリストには「プロが教える技術翻訳のスキル (KS語学専門書)」の著書で知られる技術翻訳者の大光明宜孝さん、そして「HOMELAND」の字幕翻訳者として有名な仙野陽子さんの計4名です。

90分という時間的制約の中で、会場から質問や発言も多くいただけて、とても有意義なセッションになったと思います。概略は、次号の日本翻訳ジャーナルに掲載されると思いますので、そちらをご参照いただくとして、このブログでは、パネルディスカッションのフォロー記事として、私が伝えきれなかった(伝えようと思っていた)メッセージを記したいと思います。

仕事が途切れるということ ~「クレームについて」

会場では1例しかお話できませんでしたが、「依頼がゼロになる」ケースはいろいろと想像できます。そもそも「クレームは特になかったのに仕事がゼロになった」という言葉は、依頼が止まる前にはクレームがあるという意識の裏返しだと思いますが、そこは認識が間違っていて、依頼が無くなることとクレームとの相関関係は薄いと思います。翻訳を依頼する翻訳者さんを翻訳会社の中でどう位置付けているかにより、依頼が止まる状況は変わってくると思われます。会場で言及したケースですと、その翻訳者の分野案件の受注がパタリと無くなったことが、依頼の止まった原因です。分野がニッチであれば良く発生することだと思います。翻訳会社によって、抱える顧客の違いによって分野の仕事量が違いますので、自分の扱える分野の仕事量が多い翻訳会社を探すとか、取り扱える分野を拡げる努力をする事が、定常的な仕事の確保には大切だと思います。また、この例の翻訳者の場合、御用伺いメールを翻訳会社へ送付したことで、翻訳会社側が長期にわたり仕事を依頼していないことに気づき、内部調整して仕事を依頼する方向に話が進んだということで、「こない、こない」と腕を組んで待つのではなく、何かの機会に連絡をして様子をうかがってみるのも大切なことかもしれません。翻訳会社側の立場でみれば、優秀な翻訳者さんへは積極的に仕事を出したいと考えているものです。ただ、依頼状況をひとりひとり見ているわけでもありませんから、こういうきっかけを与えて気付かせるということも大切だと思います。

他にはこんなケースもあります。ある特有の顧客に対してのみ販売できる品質の翻訳者の場合です。どういうこと?と思われるでしょう。翻訳を購入する顧客の要求品質は、お客様によって様々です。私たち翻訳を仕事にしている側から見て、一種独特な翻訳を要求するお客様もいるわけです。そういう独自の翻訳に対応できる翻訳者の場合、そのソースクライアントが発注をやめた途端に仕事の依頼を失うことになります。一番、翻訳者さんが気になるのは、翻訳品質に問題があって依頼が来なくなるケースだと思います。その場合、はたして翻訳会社は品質に関するフィードバックをくれるでしょうか?答えは多分「No」です。会場からアスカコーポレーションの石岡社長がお話されましたが、「次に依頼しようと考えているから、フィードバックをする」のです。私も全く同意見です。フィードバックに大変な労力を要するのは皆さんが理解されている通りです。企業側から見ると、それは「投資」と全く同じですので、その投資効果が見込めないならばわざわざフィードバックしません。つまり、今後依頼をしないのにフィードバックはしないということです。

じゃぁ、翻訳者側から見たら、なぜ依頼が止まっているのか判断できないじゃないか・・・。という声が聞こえそうですが、だ・か・ら、御用聞きするのです。メールをしてみるのです。その反応である程度は判断することができるでしょう。返信さえないようなら、全く望みなしでしょう。忘れて次へ行きましょう。今後も依頼したいと考えている翻訳者さんが相手なら、翻訳会社も言葉数が多くなるものです。いろいろと状況を説明して理解を求めようとするものです。もし、「お願いできる案件がきたらご連絡します」という平易な乾いた返事がきたら、8割方、依頼する気が無いと捉えた方が良いかもしれません。(実は仲間内で、こういった「翻訳会社の常套句リスト」なるものを作り、その真意を説明するリストを作ってブログで公開しようか?という話になったことがあります(笑))

エージェントを「選ぶ」という発想

これに関しては、今朝ツイートをしたので、それらに加筆してこちらに載せます。

  • セッションで、翻訳会社を選択しようという話しをあまり掘り下げられなかったけれど、あそこで発信しようとしていた情報は実はもっとあって、翻訳会社の言動や行動を見て、その会社(や経営者)の意識と考えを汲み取って優良な翻訳会社のみを残して取引していこう・・・という話をしたかったのです。
  • そして、翻訳会社の選別をする上で、自分なりのスコアリスト(評価表)を作ってみてはどうかと。例えば1)消費税は支払われている。2)振込手数料は会社側負担。3)業務委託時に発注書が必ず送付されてくる。4)ソークラのクレームをそのまま連絡してこない・・・みたいな項目で評価する。
  • 翻訳白書を見ても分かるとおり、規模は別として翻訳会社は多数あるわけです。仕事が安定するまでは相手を選べないでしょうが、安定期を迎えて取引相手に問題があると感じるならば、どんどん新規取引先を開拓して入れ替えていく。そうやって自分の身を守り、位置を高めましょう・・・的話もしたかった。
  • まぁ、ちょっと話は脱線するが、セッション後に話しかけてくれた翻訳者さんに「JTF会員法人でも、消費税?なにそれ?という意識の会社がある」と聞かされて、もう、がっかりを通り越した。これは経営者の問題。勉強不足にもほどがある。JTFも会員にする上での評価項目に盛り込むといいのに。

まずは法令を遵守するコンプライアンスのちゃんとした翻訳会社、そして翻訳のプロである翻訳会社、翻訳者を対等に扱う翻訳会社、といった視点で評価項目を並べ、項目によっては加点法と減点法に分け、その評価リストをベースにして取引する(している)翻訳会社を評価する。そして評価の高い上位何社と取引するというスタイルを考えてみると良いと思います。リストは取引開始前(契約前)に評価する項目を分けておき、トライアル翻訳実施前に問い合わせる項目として、翻訳会社からの回答を得て評価し、トライアル翻訳を受けるかどうかなどを判断するという使い方もいいと思います。

振込手数料は本来、誰が負担すべきなのか?

セッションでは明確な情報出しができず、申し訳なかったと思います。セッション後にした私のツイートに対して、翻訳勉強会「十人十色」の主宰メンバーのひとり、豊田憲子さんが調べてくれましたので、そのまとめ記事をこちらにリンクしておきます。

振込手数料は翻訳会社負担であるべき

タイトルにある通り、振込手数料は翻訳会社が本来負担すべきものという解釈です。また、JTF翻訳ジャーナル279号の私の特集記事「翻訳者の真実」に記載した内容も併せて理解しておいていただきたいので、以下に引用しておきます。

もし、取引先が下請法上の親事業者にあたる場合、「下請事業者と合意することなく、下請代金を銀行口座へ振り込む際の手数料を下請事業者へ負担させ、下請代金の額から差し引くこと。」は「下請代金の減額」に該当する可能性があるようですので、これをひとつのガイドラインとして考えるのも良いかもしれません。(公正取引委員会「ポイント解説 下請法」より引用: http://www.jftc.go.jp/houdou/panfu.files/pointkaisetsu.pdf )

以上がフォロー記事です。

我々のセッション終了後の午後は、機械翻訳推進派の渦中で孤軍奮闘するであろう遠田先生応援のため、「MT Live ~機械翻訳の担うべき役割~」<第2部>を聴講しましたが、いろいろと言いたいこと満載の内容でしたので、別記事にして公開したいと思います。

最後に、我々のセッションを聴講いただいた皆様、ありがとうございました。

作成者: Terry Saito

某社翻訳部門の中の人です。 詳細は、以下のURLよりどうぞ。 https://terrysaito.com/about/

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