2015年9月19日にサンフレアーアカデミーで開催された深井裕美子先生の「英文読解力強化セミナー~誤読をなくし、誤訳を防ぐ~」を聴講してきました。このセミナーは人気シリーズのようで、私が聴講させていただいたのは、追加開催の回でした。(今後も追加開催されることを期待します。)
セミナーの最初は、過去に翻訳フォーラムや別の機会でも拝見したことがあるCMビデオでウォーミングアップ。私が目にするのは3回目ですが、そのたびに私の頭に浮かぶ訳は同じで、そして最後に辞書の解釈から「それはない」という結論を聞き「とほほ」となるの繰り返し。今回は休み時間にちょうど私のところへ先生が来てくれたので、思い切って自分の考えを話してみました。ネタバレになるといけないので、詳しくは書けませんが、辞書による解釈という視点ではなく、「訳」がどういうシチュエーションで使われるかという視点で私の考えには抜けがあったのです。もちろん、そこを意識しなかったわけではなく、ちゃんと意識はしたけれども、自分の取った判断が不適切だったということが理解できました。翻訳はリスクマネジメントだと私は以前から言っているのですが、その部分で大ポカをやっていたわけです。次回からは絶対に違った訳文が頭に浮かぶ自信があります(笑)
このセミナーは、こんな気付きが怒涛のように押し寄せるセミナーです。事前課題が2点出され、当日、提出。その課題を元に先生と生徒の間で訳文に対する考え方のキャッチボールをします。その過程を通じて、どのような視点で何を調べ、どこまでの深度で原文(この場合英文)を読み解き、理解をする(べきな)のかを学べます。受講する側の姿勢として大切なのは、自分が提出した訳文に帰結した理由、例えば原文の時代背景、時間、著者の視点、表現、単語、空間、関係性、対象読者、読者の視点などなど、どこまでの要素を読み取って意識し、何を調べ、その情報からどう判断して原文を解釈し、その訳文にたどり着いたのかを強く意識して、先生の話を聞くことだと思います。
私が聴講して感じたこのセミナーの目的は、「翻訳者として翻訳の玄人になる」ための知恵付けをしてくれているものだと思います。もちろん、英文を正しく読むことを目的としているけれども、本来の目的はもっと高いところにあって、例えば、以下のようなことでしょう。
- 翻訳者は、翻訳のプロフェッショナルとして、自分の訳文に責任を持ちなさい。
- そのためには、自分の訳文について、他人(顧客など)へ理路整然と説明ができ、場合によっては説得できなくてはなりません。
セミナーでは、いろいろな具体的手法も提示されましたが、それらは実際にセミナーを受けて学んだ方が身に付くと思いますので、ここには書きません。
この種のセミナーを受講した後に耳にする話に「分野の違い」があります。自分たちがやっている技術翻訳とか医療・医薬翻訳など産業翻訳系で取り扱う文書と、セミナー課題の分野の違いを指しているわけですが、そこで「だから、全然関係ない」と判断されるようだと、それは大間違いです。
私が思ったのは、自分が取り扱う分野の文書を理解し翻訳する上で、必要となる知識や調べものは、経験則から「この辺までやれば顧客期待通り」という線引きを脳内でしていて、日々の繰り返しの中で無意識に定着してしまっているのではないかと思うのです。この見えない「線引き」が、翻訳者をダメにしてしまう恐ろしさを持っていると思うのです。このセミナーは、その無意識に根付いてしまった「線引き」に気付かせてくれると同時に、その先にある「やるべきこと」を思い出させてくれます。
セミナーを終えて帰宅する電車の中でつくづく思ったのは、日々の翻訳に「慣れ」を感じてしまっていたら、例えば半年に1度はこういうセミナーを受講して、硬くなった頭を元に戻してやる必要があるなぁと思いました。
条件反射やら脊髄反射やら、そんな翻訳作業になっているなぁと感じる方は、ぜひ、受講されることをお勧めします。